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日外会誌. 96(3): 153-159, 1995


原著

肝硬変脾摘後肝組織血流量と肝予備能の変化

岩手医科大学 医学部生化学講座
 外科学第1講座

目黒 英二

(1993年9月21日受付)

I.内容要旨
肝硬変における脾摘術の肝予備能に及ぼす効果を動物実験で検討した.ラット腹腔内にthioacetamide(200mg/kg×30回)を投与して肝硬変モデル(TAA群)を作製後脾摘し,肝に刺入固定した電極を用い,電解式組織血流計で7病日まで連日肝組織血流量(TBF)を測定した.また別にTAA群を作製し術前,術後1,4,7病日に門脈圧(PP)を測定後屠殺し,肝と脾の重量を測定,さらに肝adenine nucleotides量をHPLC法で定量し,肝のEnergy charge(EC)を算出した.
TAA群では,組織学的にも肝硬変がみられ,かつ対照(TAA非投与:N群)に比べて,脾重量,PPが高かった.PPは脾摘後,TAA群で1病日に40%減少(14.7±2.0 → 9.1±1.4cmH2O)し,以後7病日まで脾温存群よりも有意に低下したまま推移したが,N群では変動はみられなかった.TBFはTAA群で脾摘後1病日に45%減少(63.02±12.89 → 34.34±7.99ml/min/100g)し脾温存群よりも有意に低値となったが以後漸増し7病日には105.04±25.67ml/min/100gと術前より高くなる傾向を示した.N群では軽度の変動はあるものの,有意な変化はなく,脾摘の有無による差はみられなかった.脾摘後肝ECはN群では上昇がみられたが,TAA群では術前値より低い値のまま経過し,肝ATP量も脾温存群より有意に低値であった.
今回のラットでの実験から,肝硬変が基盤にある場合,脾摘術そのものは直後に門脈圧低下と肝組織血流量低下をもたらし,その後の肝エネルギー代謝率上昇は障害される結果を示した.肝硬変においての脾摘術の付加は生体にとって有意な負荷であり,その適応には慎重でなければならない.

キーワード
thioacetamide, 脾摘, 肝組織血流量, 門脈圧, Energy charge

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