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日外会誌. 96(3): 137-144, 1995


原著

食道癌における局所進展形式としての神経周囲浸潤について

藤田保健衛生大学 船曳外科

落合 正宏 , 新井 一史 , 船曳 孝彦 , 今津 浩喜 , 丸上 善久 , 二渡 久智 , 松原 俊樹

(1993年9月9日受付)

I.内容要旨
食道癌において神経周囲浸潤(pni)はどのように存在し,また治療成績に如何に影響するかについて知るため,食道扁平上皮癌107例の切除標本を用いて病理組織学的検索を行い,retrospectiveに臨床成績との関連を検討した.
食道癌107例におけるpni陽性の症例数は31例で陽性率は29.0%であった.pni陽性率は壁深達度と強く相関し,a(-)症例では陽性例を1例も認めず,a1で26.3%,a2で36.5%,a3で66.7%と深達度が深い症例ほど陽性率は高かった.また組織学的進行度とも関連を示し,stage 0,Iではpni陽性例は1例もなく,stage IIで23.1%,IIIで24.3%,IVで45.9%とステージが進むほどpni陽性例は高頻度となった.
脈管侵襲との関連ではリンパ管侵襲との間で相関を示し,pni陽性率はly(-)で7.4%,ly (+)で36.3%とly陽性例に高率にみられた.静脈侵製についてはv(-)で25.3%,V(+)で37.5%,リンパ節転移についてはn(-)で19.5%,n(+)で33.3%で,有意差はなかったがV (+),n (+)でやや高い傾向を示した.なおpni陽性率と年齢,性,占拠部位,腫瘍長径,分化度との間では相関は認めなかった.
術前放射線非照射例ではly(+)率86.8%,V(+)率38.2%,pni(+)率32.4%であったのに対し,術前に放射線治療を行った症例ではly(+)率は53.8%,V(+)率は15.4%,pni(+)率は23.1%で,ly,V陽性率は放射線照射により著明に低下したが,pni陽性率は有意の低下を示さなかった.
臨床成績では,治癒切除率はpni(+)例では32.3%でpni(-)例の57.9%と比較して低く,局所再発率はpni(+)例では30.0%とpni(-)例の4.5%と比較し著しく高かった.累積生存率の検討では有意差は認めなかったものの,これらの結果からみてpniの存在は食道癌の治療成績を悪化させる1つの要因と考えられ,膵胆道癌におけると同様に,治療に際して十分な注意が払われるべきであろう.

キーワード
食道癌, 神経周囲浸潤, 脈管侵襲, 術前放射線治療

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