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日外会誌. 95(11): 834-837, 1994


原著

腎移植後に発生した悪性腫瘍の検討

京都府立医科大学 第2外科

鈴木 茂敏 , 大坂 芳夫 , 中井 一郎 , 安村 忠樹 , 大森 吉弘 , 岡 隆宏

(1993年7月14日受付)

I.内容要旨
腎移植後に発生した悪性腫瘍について計量疫学的解析を中心に臨床的検討を行った.京都府立医大第二外科では1970年4月から1992年12月末までに施行した376例の腎移植症例のうち21例(5.8%)に,23病巣の悪性腫瘍発生を認めた.性別は男性13例,女性8例,移植時年齢は9歳から53歳,平均31.2歳で,発生時年齢は23歳から57歳,平均42歳であった.全例生体腎移植であった.腎移植から悪性腫瘍診断までの期間は1年6カ月から16年6カ月,平均10年9カ月で,12例は10年以上の長期生着例で悪性腫瘍症例の57.1%をしめた.腫瘍の部位は,食道,胃,結腸,直腸,肝臓,皮膚,乳房,腎臓,甲状腺及び白血病の10部位で,消化器系の悪性腫瘍が約半数をしめた.21例中9例,43%が癌死し予後は不良であった.
人年法を用い腎移植後の悪性腫瘍発生率と一般人口のそれとを比較した.全部位の悪性腫瘍発生率の相対危険度は,男性6.1倍,女性10.5倍,全体7.3倍で各々有意に高率で,腎移植患者は悪性腫瘍発生のhigh risk groupであるといえた.部位別の悪性腫瘍発生率は胃を除く9部位で相対危険度が増大しており,さらにその内の6部位(結腸10.0倍,肝臓25.6倍,皮膚125.0倍,乳房14.2倍,腎臓44.4倍,甲状腺27.8倍)では有意に高率であった.移植後5年毎の経過年数別での悪性腫瘍発生率の相対危険度は移植後0~5年で6.5倍,5~10年で10.0倍,10~15年で9.3倍であり,移植後5~10年と10~15年で有意に高率であった.
以上,腎移植後の悪性腫瘍の発生率は一般人口のそれに比べて有意に高く,しかも移植後5年以降に高率であり,腎移植の長期生着を妨げる大きな要因である.従って,腎移植後の悪性腫瘍の早期診断,早期治療のためには遅くとも移植後5年以内に年1回の定期検診を開始する必要があると考えられる.

キーワード
腎移植, 悪性腫瘍, 人年法

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