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日外会誌. 95(11): 807-813, 1994


原著

肝細胞癌と門脈血流に関する検討

東京医科歯科大学 第1外科

野坂 俊壽

(1993年4月30日受付)

I.内容要旨
肝細胞は動脈,門脈の二重支配であるのに対し,肝細胞癌(HCC)はほぼ100%肝動脈から血流を受けるとされ,これが肝動脈塞栓術(TAE)の根拠となっている.しかしTAE施行後の癌再発は必至であることから,HCCの栄養血管に関しては問題点があり,これに対し検討を加えることにした.
当科において亜区域切除以上の肝切除を施行したHCC 10症例を対象に,thymidineのアナローグであるBromodeoxyuridin (BrdU) を用いた細胞動態の検討,および凝固性造影剤マイクロフィルを用いた血管分布の検討を今回施行した.対象のうち,6症例(8病巣)は術前TAE非施行群,残り4症例(7病巣)は術前TAE施行群である.手術時流入門脈枝よりBrdUを注入し,標本に免疫組織化学的染色(BrdU染色)を加えてS期細胞を標識した後,標識率(Labeling Index,癌細胞100個あたりの標識細胞数)を検討した.TAE非施行群(n=8)では,L.1.は0.9~4.2%(平均2.0±1.1%),TAE施行群(n=7)では7.4~19.4%(平均11.9±4.2%)で,両者の間に有意差を認めた(p<0.01).切除標本の門脈枝からマイクロフィルを注入し軟線撮影および透徹標本の実体顕微鏡による所見では,TAEの有無にかかわらず門脈枝が腫瘍内部にまで分布している所見が観察された.
以上よりHCCはもともとわずかとはいえ門脈からも血流も受けており,TAE施行後には一時期にせよ肝動脈に代わって門脈が主たる栄養血管になっていることが示唆された.従ってHCCに対する集学的治療においては,肝動脈のみならず門脈からのアプローチも併用することが必要と考える.

キーワード
肝細胞癌, 門脈, 肝動脈塞栓術, BrdU, マイクロフィル

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