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日外会誌. 95(10): 775-785, 1994


原著

人工血管置換後の早期開存に関する実験的研究
-抗トロンビン剤アルガトロバンおよび抗血小板剤クロピドグレル(SR25990C)の効果-

岡山大学 医学部第2外科(主任:清水信義教授)

花岡 俊仁

(1993年7月7日受付)

I.内容要旨
人工血管置換後の早期血栓性閉塞を抑制するために,抗トロンビン剤アルガトロバンと抗血小板剤クロピドグレル(SR25990C)の抗血栓効果と,凝固線溶動態が内皮薄層化に与える影響を雑種成犬を用いて検討した.
アルガトロバンの持続点滴静注を行った急性実験では,アルガトロバン血中濃度の上昇にともない,活性化全血凝固時間 (ACT),プロトロンビン時間 (PT),活性化部分トロンボプラスチン時間 (APTT) がほぼ同程度の延長率を示し,高濃度ではトロンビンアンチトロンビンIII複合体 (TAT) が減少した.クロピドグレルを1回経口投与した急性実験では,ADPによる血小板凝集が著明に抑制された.
慢性実験では,雑種成犬21頭の腎動脈下部腹大動脈を内径5mmのknitted Dacron人工血管で置換し,手術直後・1週間後・2週間後・1カ月後に血管内視鏡と血管造影により人工血管内腔を評価した.I群(薬剤無投与群,8例),II群(アルガトロバン1μg/kg/min術後2週間投与群,7例),III群(クロピドグレル12.5mg/kg/day術後1カ月間投与群,6例)の置換人工血管開存率は,1週間後I群75%,II群86%,III群100%で,同様に2週間後は75%,86%,100%で,1カ月後は50%,71%,100%であった.血管内視鏡より算出した最大狭窄率の平均値は,1週間後I群31%,II群5%,III群4%で,同様に2週間後は52%,23%,13%で,1カ月後は61%,40%,9%であった.凝血学的検討では,TATが術直後に増加し凝回系の活性化が示唆された.I群では血栓形成によるTATの増加が持続したが,投薬群では抑制された.アルガトロバン投与中はACT,PT,APTTが延長したが,他の凝固線溶系には変動を認めなかった.クロピドグレルは慢性投与において,凝固線溶系,血小板数に影響を与えなかった.
アルガトロバンとクロピドグレルは人工血管置換後の抗血栓療法に有用で,内皮の薄層化は小口径人工血管置換後の早期開存にきわめて効果的であることを示唆するものである.

キーワード
クロピドグレル, アルガトロバン, 凝固線溶動態, 血管内視鏡, 小口径人工血管


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