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日外会誌. 95(9): 689-698, 1994


原著

摘脾による免疫能の低下と脾自家移植によるその回復

長崎大学 医学部第2外科(主任:兼松隆之教授)

太田 信吉

(1993年4月5日受付)

I.内容要旨
摘脾による免疫能の低下について注目すると共に,摘脾せざるを得ない場合にその機能を温存するために脾を細切し大網内に挿入するか(大網内移植)あるいは腸間膜内に注入する(腸間膜内移植)2通りの方法をラットを用いて行い,脾再生について検討した.羊赤血球5×107個静脈内投与に対して摘脾群では抗体産生をほとんど認めないが,大網内移植では術2週目で弱いながらも抗体産生を認め始め術4週目では高い抗体産生能を認めた.腸間膜内移植群では再生が少し遅れ術4週目に有意の抗体産生を認めた.この抗体産生能は,自家移植後1年5カ月においても維持されていたが,摘脾群では回復を認めず,自家移植脾が術後長期間機能していることが示された.
末梢血リンパ球(PBL)のNK活性については摘脾群で術2週後に一過性に低下を認めたが自家移植群では認めなかった.リンパ球に対するモノクローナル抗体による免疫組織学的検討では移植脾において術1週後もB細胞,CD4陽性,あるいはCD8陽性T細胞は脾の構造に従い存在し,脾の形態が保持された所から再生していく事が推察された.またメチルコラントレン誘発線維肉腫FMC7の担癌12日目に腫瘍摘出した後,摘脾,自家移植または単開腹を同時に行い,さらにそれぞれについて新たにFMC7を腹腔内または静脈内に投与し生存期間を検討した.FMC7静脈内投与での平均生存期間は摘脾群32日,脾摘後自家移植群39.7日,単開腹群62日と単開腹群で有意の延長を認めた.しかし腹腔内投与群では生存期間に有意の差を認めなかった.静脈内投与群での死亡原因は肺転移によるものであり,脾は血行性転移の防御に何等かの役割を担っていると思われた.脾は血中に存在する抗原に対して特に重要な働きを果たしており,脾摘後自家移植は,この様な脾の持つ免疫学的な機能を維持することが可能な1つの方法と思われた.

キーワード
脾摘後重症感染症, 脾自家移植, 脾のリンパ球分画, 脾の抗体産生, NK 活性

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