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日外会誌. 95(7): 448-457, 1994


原著

N-methyl-N’-nitro-N-nitrosoguanidine 誘発胃癌細胞株移植ラットにおける脾臓の抗腫瘍免疫能の変化

帝京大学 医学部第2外科

松本 香

(1993年3月31日受付)

I.内容要旨
胃癌治療における脾摘の功罪に関しては必ずしも意見の一致をみていない.本実験は,担癌生体での脾の腫瘍免疫能を,腫瘍増殖抑制あるいは促進という,いわば正と負の免疫能の均衡という点から検討し,腫瘍増殖における脾摘の免疫学的意義を明らかにすることを目的とした.
N-methy l-N'-nitro-N-nitrosoguanidine誘発ラット胃癌細胞株を皮下に移植し2週(早期), 5週(中期), 8週(末期)に脾摘を行い,腫瘍増殖,および生存日数への影響を観察した.また担癌ラットにおける脾のキラー細胞活性 (ナチュラルキラー細胞: NK,細胞障害性T細胞: CTL) とサプレッサー細胞活性の経時的変化を検討し,さらに脾のエフェクター細胞をWinn中和試験にて解析した.また担癌ラットの血清Immunosuppressive acidic protein (IAP) 値を測定し,脾摘による影響を検討した.
平均生存日数は,担癌早期および中期に脾摘を行った群では,偽手術群に比較して有意に短縮し (p<0.05),担癌末期に脾摘を行った群では,逆に延長する傾向を示した.担癌ラット脾細胞のNKおよびCTL活性は,非担癌群に比較して癌の中期に有意に上昇し (p<0.05),その後低下する傾向を示した.一方,脾細胞のサプレッサー細胞活性は腫瘍の増殖に伴い有意な上昇を示した (p<0.01).Winn中和試験の結果から,担癌中期の脾のエフェクター細胞はT細胞が主体であり,NK細胞も関与していることが確認された.さらに担癌末期の脾のサブレッサー細胞活性はサプレッサーマクロファージとサプレッサーTリンパ球の両者によることが明らかとなった.
担癌ラットの脾は腫瘍増殖に伴い,キラー活性とサプレッサー活性の均衡が微妙に変化することが知られ,担癌早期・中期の脾はキラー活性が優位であることから生体に有利に,また末期ではサプレッサー活性が優位であることから生体に不利に働く事が確認された.

キーワード
胃癌, 腫瘍免疫, キラー細胞活性, サプレッサー細胞活性

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