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日外会誌. 95(7): 425-434, 1994


原著

ヒト食道扁󠄀平上皮癌に高率に反応するモノクローナル抗体(KYSM-1)の作製とその特性

久留米大学 医学部第1外科(主任:掛川暉夫教授)

富田 裕輔

(1993年3月10日受付)

I.内容要旨
ヒト食道癌株を免疫原として,食道癌細胞と高率に反応するマウス型モノクローナル抗体, KYSM-1 (IgM)を作製し,その反応特異性およびその抗体が認識する抗原の生化学的性状について検討したところ,以下のような結果をえた.
7種類のヒト癌培養細胞株 (14株),癌組織 (166例) および非癌( 健常) 組織 (10例) を免疫組織化学的染色により検討すると,KYSM-1は食道癌由来細胞株のYES-2, YES-6 (山口大第2外科より供与),TE-10, TE-11 (東北大第2外科より供与),KE-1, KE-2 (当科樹立),類表皮癌細胞株のCaski,舌癌細胞株のSCC-9および胃癌細胞株のKATO-IIIと反応を認めたが,類表皮癌細胞株のA-431, 肺癌細胞株のPC-3, 大腸癌細胞株のCOLO-205および白血病細胞株のK-562, Daudiとは反応を認めなかった.また,細胞の反応局在部は細胞膜に一致して強い染色が認められた.KYSM-1とヒト癌組織との反応性は,食道扁平上皮癌では92% (95/103例), 口腔扁平上皮癌 (本学口腔外科より供与) では100% (3/3例),肺扁平上皮癌では100% (7/7例) と高率に陽性を示したが,胃癌では8% (2/25例) と低率で,大腸癌,肺の非扁平上皮癌ではいずれも反応を認めなかった.なお,健常食道上皮との反応性は,健常食道粘膜の基底細胞と弱い染色性を認めたのみで,その他の臓器の健常組織では反応を認めなかった. KYSM-1に対する抗原性は, pronase, trypsinおよび加熱処理で失活したが,過ヨーソ酸およびneuraminidase処理では抗原性の失活を認めなかった. SDS-PAGEとWestern blottingで抗原の解析を行ったところ,分子量約60,000の部位に染色bandを認めた.
以上の成績から, KYSM-1は扁平上皮癌と特異的に反応し,その認識する抗原は分子量約60,000の細胞膜蛋白性抗原と推測され,扁平上皮癌特有の抗原物質が存在することが考えられた.

キーワード
食道癌, モノクローナル抗体, 免疫組織化学的染色, 蛋白性抗原, Western blotting


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