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日外会誌. 95(6): 368-375, 1994


原著

逆流によるラット胃癌発生に関する研究
-胃・十二指腸液の変異原性について-

金沢大学 医学部外科学第2(主任教授:宮崎逸夫)

松本 尚

(1993年3月2日受付)

I.内容要旨
十二指腸液胃逆流による胃発癌に関して,胃液および十二指腸液の変異原性,硝酸塩還元菌の増殖を実験的に検索した.ウィスター系雄性ラットを用い以下の実験群を作成した. 1) 逆流群; a) 十二指腸液がすべて幽門輪を経て胃内へ逆流する群 (DGR群), b) 逆流手術に迷走神経切離を付加した群 (DGR+V群), 2) 対照群; a) 胃切開を行った単開腹群 (SO群), b) 単開腹に迷走神経切離を付加した群 (SO+V群) である.発癌剤は投与せず,術後50週で動物を屠殺した.胃癌の発生は対照群では認められなかったが (0/25),逆流群では41% (9/22) と有意に高率にみられた (p<0.01).変異原性試験の陽性率は胃液では DGR群14% (1/7), DGR + V群44% (4/9), SO群 0% (0/10), SO+V群0% (0/10) で,DGR+V群はSO+V群に比べ有意に陽性率が高かった (p<0.05).さらに逆流群31% (5/16) と対照群0% (0/20) との間に有意差が認められた (p<0.05).十二指腸液では14% (1/7), 33% (3/9), 0% (0/10), 0 % (0/10) で,逆流群25% (4/16) は対照群に比し有意に高率であった (p<0.05).硝酸塩還元菌数 (log10N/ml) は胃液ではDGR群3.0±0.8, DGR+V群5.9±1.7, SO群3.5±1.0, SO+V群6.0±1.5で,逆流群,対照群ともに迷走神経を切離した群で有意に増加していた (p<0.01).十二指腸液では6.6±1.9, 6.5±1.4, 3.3±0.5, 4.7±1.1で,DGR群,DGR+V群は対照のSO群に比べ有意に増加していた (p<0.01).以上より,十二指腸液逆流ラットでは胃液および十二指腸液に変異原性物質が含まれており,胃のみならず十二指腸も癌原性物質の生成の場としての可能性が高いことが示唆された.また,その生成には硝酸塩還元菌の増殖と十二指腸液の存在が密接に関与していると考えられた.

キーワード
胃癌, 十二指腸液胃逆流, 変異原性試験, ニトロソ化合物

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