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日外会誌. 95(6): 359-367, 1994


原著

胸部食道癌に対する後縦隔経路頸部吻合術後の嚥下機能と誤嚥発生機序

岩手医科大学 第1外科

佐々木 章

(1993年1月25日受付)

I.内容要旨
胸部食道癌に対する後縦隔経路頸部吻合術後の嚥下機能と誤嚥発生機序を解明する目的で,嚥下内圧測定,口腔咽頭排出シンチグラフィを用いて検討した.健常人7例と後縦隔経路頸部食道胃吻合症例17例(非誤嚥群11例,誤嚥群6例)を対象とした.内圧測定ではinfusion open-tip法を用い,空嚥下時の上部食道括約筋(UES)を中心とした3点の圧変化を検討した.口腔咽頭排出シンチグラフィは,74MBqの99mTc-Sn colloid 10mlを嚥下させ咽頭充満時間(TFP),食道充満時間(TFE),咽頭排出速度が最大になるまでの時間(TPERP),食道充満速度が最大になるまでの時間(TPFRE)を算出し,各群間で比較した.以上の検討は原則として術後14病日と退院時に行い,有意差はWilcoxon検定を用いた.誤嚥群では,反回神経麻痺の有無に関係なく,退院時には全例誤嚥の消失をみた.誤嚥群の術後早期の咽頭収縮圧,UES弛緩圧は,それぞれ30.4±6.6mmHg,33.7±17.2mmHgで健常人に比べ有意の(p<0.01)低値であり,UESの協調不全,不完全弛緩も認めた.誤嚥群の退院時の咽頭収縮圧は,45.0±11.7mmHgと非誤嚥群52.5±8.2mmHgのレベルまで圧上昇を示したが,UES弛緩圧は39.0±17.5mmHgと僅かな圧上昇に留まった.また,退院時には誤嚥群のUESの協調不全,不完全弛緩はほぼ消失した.シンチグラフィでは,非誤嚥群の術後早期は4項目とも健常人と同等であったが,退院時には4項目とも健常人よりも短縮する傾向を示した.誤嚥群の術後早期はTPERP,TFEで健常人に比べ有意の(p<0.05)延長を示したが,退院時には4項目とも健常人と同等の値を示した.反回神経麻痺例,気管切開例では,TFEにおいて有意の(p<0.05)延長を示した.また,2領域リンパ節郭清と3領域リンパ節郭清とでは嚥下機能に差がなかった.以上より,胸部食道癌に対する後縦隔経路頸部吻合術後早期の誤嚥は,咽頭収縮不全による通過時間の延長とUES機能不全が主因であることが明らかとなった.

キーワード
胸部食道癌, 誤嚥, 内圧測定, 口腔咽頭排出シンチグラフィ, 反回神経麻痺

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