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日外会誌. 95(4): 248-258, 1994


原著

大量肝切除後の肝血行動態と肝類洞内皮の超微形態学的・免疫組織学的変化の相関に関する実験的検討

鹿児島大学 医学部第1外科

上野 信一

(1993年1月14日受付)

I.内容要旨
大量肝切除後の肝血行動態および類洞内皮の超微形態学的・免疫組織学的変化についてイヌを用いて実験的に検討した.肝切除量は30% (I群), 70% (II群) および84% (III群) の3種とし,切除前,切除直後, 3, 8, 24時間後に血行動態を測定し,血管抵抗を算出した.さらに切除後3, 24時間のイヌについて,電顕による形態学的観察およびトロンボモジュリン染色による免疫組織学的観察を行った. III群では切除の8時間後には2頭のみが検索可能で, 24時間後にはすべてのイヌが死亡して検索不能であった.
肝切除量の増加に伴って切除直後より肝動脈および門脈血管抵抗は有意に上昇し,切除の3時間後にその傾向はいっそう顕著となり,肝組織血流量は減少した. しかし, III群の変化は不可逆的であったのに対し, II群では24時間後に肝動脈および門脈血管抵抗はいずれも低下し,肝組織血流量も回復した.
電顕による観察では, I群は3, 24時問で明らかな変化がみられなかったのに対し, II群では類洞内皮自体は比較的よく温存されていたが, 3時間後に類洞内皮細胞小孔が収縮し, 24時間後にはこれが拡張する変化が認められた.一方, III群の3時間後では類洞内皮細胞小孔の収縮のほかに類洞内皮の剥離・消失などの器質的障害が著明に認められた.
トロンボモジュリン染色による観察でも,切除3時間後のIII群の類洞内皮の染色性は他の2群よりも,明らかに低下していた.
以上の成績より,大量肝切除における類洞内皮の経時的変化は肝血行動態の変化とよく相関しており,また類洞内皮の破綻は血流障害や凝固充進状態を惹き起こし,著しい血管抵抗の上昇をもたらすものと考えられた.

キーワード
大量肝切除, 肝血行動態, 肝超微形態, 肝類洞内皮細胞, トロンボモジュリン

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