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日外会誌. 95(4): 242-247, 1994


原著

大腸癌の分子腫瘍学的研究
-DNA ploidy,Ki-ras 点突然変異,p21発現について-

1) 旭川医科大学 第1外科
2) 旭川医科大学 病理部
3) 旭川医科大学 第1病理

山崎 弘資1) , 佐藤 啓介1) , 平田 哲1) , 池田 康一郎1) , 久保 良彦1) , 松井 英夫2) , 小川 勝洋3)

(1992年11月18日受付)

I.内容要旨
大腸癌においてDNA ploidy, Ki-ras遺伝子点突然変異,およびras遺伝子の遺伝子産物であるp21の発現を解析し,これらの相関性および病理学的因子,予後との関係を検討した. 42例の大腸癌の摘出材料のパラフィンブロックを用い, DNA ploidyはHedleyの方法に準じFlow cytometry法にて,Ki-ras遺伝子codon 12の点突然変異の解析はBosの方法に従いPCRにてDNAを増幅した後,合成オリゴヌクレオチドを用いたdot blot hybridization法にて行った. p21の発現はABC法による免疫組織染色の染色性から検討した. diploidyは12例 (28.6%), aneuploidyは30例 (71.4%)であった.DNA ploidyと病理学的因子との間に相関を認めなかった. Ki-ras遺伝子の点突然変異は42例中11例(26.2%) に認めた. GTT (valine) への変異が7例,GAT (aspartic acid) への変換が6例であった.うち2例ではGTTとGATへの点突然変異を同時に認めた. Ki-ras遺伝子と病理学的因子の間にも相関を認めなかった. p21の発現は17例 (40.5%) に認めた.統計学的には有意でなかったが,深達度,リンパ節転移度, stageが進むほどp21の発現が低下する傾向を示した. DNA ploidy, Ki-ras遺伝子点突然変異, p21発現性の相関は, DNA aneuploidyでは点突然変異を30例中10例に認めたのに対し, diploidyでは12例中1例に認めたのみで, aneuploidyは点突然変異の頻度が多い傾向を示し(p<0.1), aneuploidyのようなDNAの量的異常のある癌では遺伝子の質的異常も多く起こっている可能性を示唆した.点突然変異とp21の発現性, DNA ploidyとp21発現性の間には相関を認めなかった.DNA ploidy, Ki-ras遺伝子点突然変異, p21発現性と予後との関係は, diploidyおよびp21を発現している群の予後は有意に良好であり (p<0.05), DNA ploidy, p21発現性は大腸癌の悪性度の指標になると考えられた.一方, Ki-ras遺伝子点突然変異の有無で予後に有意差を認めなかった.

キーワード
大腸癌, DNA ploidy, Ki-ras, p21, 点突然変異


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