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日外会誌. 95(4): 224-233, 1994


原著

イカ墨を用いたイヌ胸部食道の壁外リンパ流に関する実験的検討

鹿児島大学 医学部第1外科学教室(主任:島津久明教授)

中野 静雄

(1992年12月7日受付)

I.内容要旨
雑種成犬22頭について,イカ墨がメラニン漂白法により自然炭粉沈着と識別可能な長所をもつことを確認し,ついでイカ墨を経内視鏡的に81頭の食道壁内に注入したのち摘出した所属リンパ節の黒染程度から食道壁外リンパ流の状況を検討した.注入深度をイカ墨が主に粘膜下層にとどまる浅層注入群と外膜あるいは縦隔内疎性結合織に達する全層注入群とに分類した.食道壁に接する胸部上部傍食道リンパ節の黒染度は浅層注入群で50% (23/46個) であったのに対し,全層注入群では78% (51/65個) と有意に高率であった.食道壁から離れて存在する胸部気管および腹部大動脈周囲リンパ節においては,黒染率,黒染度ともに全層注入群で有意に高率であった.すなわち,注入深度が深くなると近接リンパ節の黒染度の増加のみならず黒染部位の広がりも認められた.上行性リンパ流の指標としての右上縦隔最上リンパ節の黒染率は,浅層注入群では食道上・中部注入で75% (9/12頭),下部注入で0% (0 /10頭) であり,上行性リンパ流は中下部境界で明らかな変化を示していた.下行性リンパ流の指標としての左胃動脈幹リンパ節の黒染率は,食道中部中央より肛門側の注入で100% (0/15頭), 口側注入で14% (1/7頭) であり,下行性リンパ流は食道中部中央で有意に変化していた.浅層注入群における縦方向リンパ流の方向性が変化する領域(分水嶺)は,食道中部中央から中・下部境界の間に存在していた.胸部上部傍食道リンパ節(食道の前右側に存在)と気管左リンパ節の黒染度はいずれも前壁と左壁に注入した場合に最も高度で,イカ墨注入の壁周在性と黒染度の高いリンパ節部位の間には関連性が認められた.今後, このような事実が臨床例でも確認されれば,深達度を考慮した上で癌腫が分水嶺の口側か肛門側のいずれに存在するかによって胸部食道癌リンパ節郭清範囲を設定すべきであると考えられ,さらに癌腫の壁周在性によっても郭清の重点部位が異なってくる可能性が示唆された.

キーワード
イヌ食道リンパ流, 食道癌のリンパ節郭清, イカ墨, リンバ指向性物質

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