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日外会誌. 95(3): 141-148, 1994


原著

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌と緑膿菌の比較からみた院内感染の動向についての検討

1) 広島大学 医学部第1外科
2) 広島大学 医学部総合診療部

竹末 芳生1) , 児玉 節1) , 山東 敬弘1) , 村上 義昭1) , 中光 篤志1) , 松浦 雄一郎1) , 横山 隆2)

(1992年10月9日受付)

I.内容要旨
院内感染菌の動向は単一の菌種のみにとどまらず,もう一歩大きな視野で院内感染をとらえる必要があると考え,その代表としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) と緑膿菌をとりあげ,その流行の推移と抗生剤耐性化につき比較検討を行った.緑膿菌が消化器外科術後分離された際,腸管内常在細菌叢由来と院内感染菌由来の場合があり,流行性や抗生剤耐性化の実状を把握するには院内感染株の同定が必要となる.緑膿菌の血清型別の分離頻度をみると1987年におけるE群, 1990年以降のF群の流行性が認められ,またこの両群は各種抗生剤に耐性であった.さらに院外での感染である虫垂炎の虫垂内容からはE群, F群はほとんど検出されなかったのに比べ,これらは術後感染では高率に分離されており,以上の3点から両群は院内惑染株の可能性が高いと考えた.
当科においてMRSAの流行に対し院内感染対策を1988年より実施し,従来の流行株であったエンテロトキシンB型, C型のMRSAの分離頻度は減少した.それにともないそれまでの緑膿菌における流行株であったE群はほとんどみられなくなった.ところが1990年より突然AC型MRSAが出現し,それとほぼ同時期に緑膿菌ではF群の分離頻度が急増した.抗生剤感受性の面では以前の流行株であったB型, C型は現在でも依然ミノサイクリン (MINO) 感受性に留まっているが,その後出現したAC型は分離当初からMINO耐性であり,他から当科に入り込んでB型やC型にかわり流行したと推察された.これと同様に緑膿菌におけるF群は以前本菌に有効性を示していたイミペネム (IPM) に耐性化すると同時に従来の流行株であるIPM感受性のE群に代わり,主な院内感染株になっていた.このようにMRSA,緑膿菌とも以前からの院内感染株が徐々に新たな抗生剤に耐性化するよりも,すでに耐性化した株が代わって流行する形をとっていた.

キーワード
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA), 緑膿菌, 疫学的調査, 院内感染症, エンテロトキシン型


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