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日外会誌. 95(2): 109-115, 1994


原著

腎下部大動脈再建後の腎機能障害発生因子の検討
-とくにアテローム塞栓の影響について-

山梨医科大学 第2外科

保坂 茂 , 神谷 喜八郎 , 秋元 滋夫 , 鈴木 修 , 小林 正洋 , 松川 哲之助 , 多田 祐輔

(1992年10月6日受付)

I.内容要旨
高度アテローム病巣への遮断操作などに起因する,いわゆるアテローム塞栓に注目し, これが腎下部腹部大動脈再建において術後腎機能障害の原因になり得るかについて,大動脈遮断部の術前CT所見と術後腎機能推移から検討した.対象は,腎下部大動脈瘤または閉塞性疾患に対する待機的手術60例で, CT上3mm以上の動脈壁肥厚を伴った21例(II群)では,内腔側にlow densityな層としてアテローム病巣を認識でき,動脈壁が3mm以下の39例 (I群) では,アテローム病巣は認識できなかった.
術前および術後1病日, 7病日の血清クレアチニン値は, I群では0.73±0.30mg/dl, 0.76±0.33mg/dl, 0.66±0.34mg/dlと変化はなく, II群ではそれぞれ0.89±0.32mg/dl, 1.67±0.90mg/dl (p<0.01), 1.25±0.99mg/dl (p<0.05) と術前に比し有意な上昇を認め,術前との比は, 1病日でI群の1.04±0.15倍に対しII群では1.93±0.80倍 (p<0.001),退院時でもI群0.94±0.17倍に対しII群は1.35±0.67倍と有意 (p<0.001) にII群で高く,術後の回復は遷延した.血清尿素窒素の術後推移も同様の傾向を示した.また, II群に腎不全による死亡2例(うち1例は術後急性期の多臓器不全)を認め, アテローム変化による遮断部位壁肥厚の大きい症例ほど術後クレアチニン上昇は高く,腎機能障害がより強く認められた.
腎下部大動脈再建術において,アテローム変化を伴った大動脈遮断による腎へのアテローム塞栓発生が,術後腎機能障害の大きな要因であることが示唆され, とくにアテローム変化の著明な症例や術前からの腎機能低下症例においては, このアテローム塞栓発生を回避する手段を講ずる事が重要である.

キーワード
腎下部大動脈再建, 術後腎機能障害, アテローム塞栓, CT, 動脈壁

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