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日外会誌. 95(2): 56-65, 1994


原著

胃癌の膵体尾部切除における浸出液中のアミラーゼ値およびトリプシン値の推移からみた膵液漏出に関する研究

東京都立駒込病院 外科

荒井 邦佳

(1992年6月19日受付)

I.内容要旨
胃癌の膵体尾部切除後の膵液漏出に起因する合併症を予防する目的で,残存膵断端にラテックス・ラバーを縫着し漏出膵液を選択的に体外に誘導する方法(選択的ドレナージ法:以下,選択群)を考案し臨床応用を行った.本研究では,臨床成績からみた本法の有用性を検討し,併せて膵切除後の膵液漏出の実態および効率の良いドレナージ法について浸出液中の膵酵素から論じた.残存膵断端部にドレーンだけを留置する従来の誘導法(非選択的ドレナージ法:以下,非選択群)と比較した臨床成績では,選択群は術後出血の発生が少ない條向 (p=0.0776) であり,有合併症例での術後経過が有意に良好であった.膵酵素の検討では,膵断端部のアミラーゼ(Am)値とトリプシン(Tr)値は両群とも術後1日目に最高値となり,その平均は非選択群でおのおの2.6 × 104IU /L, 12.2 × 104ng/ml,選択群で25.6 × 104IU /L, 324.4 × 104ng/mlで,選択群は非選択群に比較しAmで約10倍, Trで約27倍の濃度であった.これらは術後経過とともに急速に低下し術後6日目に最低値となったが, TrはAmと異なり高値を持続する例もみられた.各ドレーンでのAm値×液量の和をAmの総排出量とし,同様にTrの総排出量も検討すると,漏出膵液の75%以上が膵断端部からの排出であった.また,非選択群は選択群に比較し総排出量が有意に低く(p<0.01),少なくとも40%以上がドレナージされずに腹腔内に貯留していることが示唆された.以上より,膵切除後のドレナージを効率良く行うためには,最低でも術後3日間は持続吸引器などを利用して積極的に膵断端部からの浸出液を排除することが重要と考えられた.また,膵断端の選択的ドレナージ法は,従来の方法と比較してドレナージ効率が良く,臨床成績上も膵切除に起因する合併症を抑制している利点から新しい優れた方法と考える.

キーワード
術後膵液瘻, 膵切除術, 胃癌手術後合併症, 浸出液トリプシン, 浸出液アミラーゼ


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