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日外会誌. 95(1): 21-29, 1994


原著

気管支断端閉鎖部の治癒過程における細菌感染の影響
吸収糸用手縫合と器械縫合器を比較して

東邦大学 医学部外科学第3講座(主任:炭山嘉伸教授)

栗田 実

(1992年11月2日受付)

I.内容要旨
気管支断端閉鎖の創傷治癒における細菌感染の影響を基礎的に検討し,併せて吸収糸による用手手術と自動縫合器による器械的閉鎖術について比較検討した.実験は154頭の雑種成犬を肺葉切除し,気管支断端の閉釦法によって,吸収糸を用いた用手縫合の用手群と自動縫合器を用いた器械群を作成した.さらに,断端にPseudomonas aeruginosa E7株を109CFU/dogの菌量で接種し, これを感策用手群と感染器械群とした.非接種の非感染用手群および非感染器械群と共に計4群について以下の5種の実験項目で比較検討した.即ち,気管支断端の生菌数,耐圧力. I・II・III・IV 各型別コラーゲン分解酵素活性, ヒドロキシプロリン量,病理祖織所見を比較した.非感染各群では気管支断端組織から菌は検出されなかったが,感染各群では経日的に減少するものの21日目まで継続的に生菌が検出された.耐圧力では,感染用手群と感染器械群は非感染の対応する各々の群に較べ有意に低下していた.しかし,感染器械群では術後3日目, 5日目で非感染用手群に比べ低値を示すが,経日的に徐々に上昇し,感染後21日目には非感染用手群,非感染器械群に匹敵する耐圧力を示した.感染各群では,両群ともI型コラーゲン分解酵素活性は術後5日目に最高値となり, ヒドロキシプロリン量はこの酵素活性を反映し, 5日目に最低値を示し, 14日目まで低値を持続した.また病理組織学的所見では,感染各群はいずれも炎症性細胞浸潤が強く,膠原線維の増生も遅れる傾向であった.以上の結果より,P. aeruginosaの存在が気管支断端の創傷治癒を阻害することが明らかになった.一方,感染用手群と比較して,感染器械群では耐圧力, I型コラーゲン分解酵素活性,ヒドロキシプロリン量の成績から,創傷治癒反応が良好と考えられる.従って細菌感染の恐れのある場合は, 自動縫合器を用いた器械縫合による気管支断端の閉鎖が有用であると考える.

キーワード
気管支断端, 器械縫合器, 感染, 創傷治癒, コラーゲン分解酵素活性


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