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日外会誌. 94(12): 1285-1292, 1993


原著

脾内肝細胞移植の肝補助機能に関する研究
-ラット急性肝不全モデルを用いた脾内移植肝細胞の肝補助機能評価-

滋賀医科大学 第1外科

竹下 和良 , 石橋 治昭 , 小玉 正智

(1992年9月11日受付)

I.内容要旨
急性肝不全モデル (Lewis同系ラット) を用いて,脾内移植肝細胞の移植後早期における肝補助機能を検討した.肝不全モデルは,門脈ー大腿静脈間に体外バイパスを置き同時に肝動脈と門脈を結紮切離遮断し作成した.肝不全のみを作成した群をI群.脾内肝細胞移植 (4×107個) を行った群をII群,牌内に同量の肝ホモジネート液を注入した群をIII群とし各々2日後に肝不全を作成した.以上の3群間で,血清アンモニアと血糖値の変化,生存時間について比較検討した.血清アンモニアはI群では,肝不全1時間後平均937, 2時間後1,220μg/dlと著しく上昇,これに対しII群では1時間425,2時間463μg/dlと1/2以下に上昇が抑えられた (p<0.01). III群はI群と同様に上昇した.血糖値はI群: 1時間23, 2時間2mg/dlに対しII群では1時間48, 2時間28mg/dlと低下が抑えられた (p<0.05). III群はI群と同様に低下した.生存時間は, II群が平均191分と他の2群に比べ統計学的には有意に長かったが (p<0.05),生存例はなく,その死因は各群とも肝不全による出血及び低血糖であった.
以上より,アンモニア処理能については,宿主肝に対してわずか4%程度に過ぎない4×107個の肝細胞でも充分な処理能を持つことが明らかとなったが,逆に生命維持のため最低限必要とする血糖維持機能については全く不十分であることが明らかにされた.ラット脾内肝細胞移植を行う場合, 4×107個 (0.8ml) が1回の移植の最大限界量と考えられ,急性肝不全に対し一時的に全肝機能を代行し救命するためには,今後,移植肝細胞数を増やすための工夫が必要であると考えられた.また,わずか4%の肝細胞でも,アンモニア処理など十分効果のある機能もあり,補助の対象とする肝機能を選択することにより有力な部分的肝補助療法になりうる可能性も示唆された.

キーワード
Hepatocellular transplantation, Acute liver failure, Portofemoral venous bypass, Serum ammonia level


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