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日外会誌. 94(10): 1144-1152, 1993


原著

癌遺伝子変化と核 DNA 量解析から検討した乳癌悪性度

近畿大学 医学部第1外科学教室

永山 孝一 , 綿谷 正弘 , 前田 重成 , 今西 幸雄 , 黒岡 一仁 , 和田 富雄 , 安富 正幸

(1992年4月14日受付)

I.内容要旨
乳癌の生物学的悪性度を遺伝子の変化より検討する目的で,105例の乳癌原発巣においてSouthern blot/Slot blot hybridization法よりc-erbB-2およびint-2遺伝子増幅,int-2遺伝子制限酵素多型性分析,免疫組織染色によるc-erbB-2遺伝子蛋白過剰発現を解析し,DNA ploidy patternを含む臨床病理学的因子との関連性を検討した.
1) c-erbB-2遺伝子増幅および遺伝子蛋白過剰発現はそれぞれ27%,28%にみられ,遺伝子増幅と遺伝子蛋白過剰発現には強い相関が認められた. c-erbB-2遺伝子増幅はリンパ節転移と相関が,またc-erbB-2遺伝子蛋白過剰発現はホルモンレセプターと逆相関が認められた.
2) int-2遺伝子増幅は17%にみられた.転移リンパ節個数を3個以下と4個以上に分類すると,int-2遺伝子増幅と相関が認められた.
3) int-2遺伝子の制限酵素多型性分析は,いずれの臨床病理学的因子とも相関がなく,乳癌の生物学的悪性度の指標になりえなかった.
4) DNA aneuploidyは30%にみられ,腫瘤径,TNM病期と相関がみられた.また転移リンパ節個数を3個以下と4個以上に分類すると,DNA ploidy patternとの相関が認められた.
5) c-erbB-2遺伝子変化(遺伝子増幅および遺伝子蛋白過剰発現)とint-2遺伝子増幅には相関はなく,またDNA ploidy patternといずれの遺伝子変化にも関連はみられなかった.
以上より,c-erbB-2遺伝子変化は乳癌の発生だけでなくリンパ節転移の過程にも関与していると示唆され,また乳癌progressionに伴いint-2遺伝子増幅とDNA aneuploidyの頻度が増大することが示された.このことから,遺伝子の量的あるいは発現異常であるc-erbB-2やint-2遺伝子変化と染色体の量的異常を示すDNA ploidy patternは,乳癌の生物学的悪性度を違った角度から反映しうると考えられる.

キーワード
乳癌, c-erbB-2遺伝子, int-2遺伝子, DNA ploidy pattern


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