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日外会誌. 94(10): 1131-1143, 1993


原著

乳癌における病理学的諸因子の予後因子解析
-再発との関係とその経時的推移について-

癌研究会附属病院 外科

吉本 賢隆

(1992年6月25日受付)

I.内容要旨
病理学的諸因子の中には予後との関係が経時的に一定ではなく時間の経過とともに変化するもののあることが指摘されているが,この現象がもつ臨床的意義および統計解析法について系統的な臨床研究が行われていなかった.本研究は,乳癌の病理学的諸因子について再発との関係の経時的推移を解析し,その時問依存性が意味する臨床的意義を検討したものである.
対象は原発浸潤性乳癌462例で,12個の病理学的諸因子についてHE標本から計量的評価を行い,その予後に対する解析を行った.まず,全観察区間においてCoxの比例ハザード回帰分析(前進選択法)を行い,p<0.1の条件下で選択された7因子(リンパ節転移度,核異型,癌浸潤リンパ球,腫瘤径,脂肪浸潤,癌巣壊死(以上,p<0.05,有意順),脈管侵襲)について,再発との関係の経時的推移を検討した.観察期間を2年未満,2年以上~ 5年未満,5年以降の3つの層別区間に区切って,各区間内で比例ハザード回帰分析を行い,各因子のβ値の推移を求めた.その結果,再発へ及ぼす影響力(β値)はリンパ節転移度,核異型では経時的に低下し,脂肪浸潤は経時的に増大する傾向が認められた.すなわち,リンパ節転移度,核異型は早期再発因子,脂肪浸潤は遅発型の再発因子と考えられた.また,癌浸潤リンパ球は強い再発抑制効果を有することが示されたが,その効果は術後短期間(2年未満)では弱く,術後2年以降においてのみ強い有意の再発抑制効果が認められた.
以上の結果,乳癌の病理学的諸因子が再発へ及ぼす影響(ハザード)は時間の経過とともに変化する時間依存性を示すことを明らかにし,その臨床的意義について述べた.

キーワード
乳癌, 予後因子, Cox 回帰分析, 時間依存性, 癌浸潤リンパ球

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