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日外会誌. 94(10): 1085-1091, 1993


原著

胃癌における細胞外マトリックスの免疫組織学的検討
-とくにテネイシンについて-

久留米大学 医学部第1外科(主任:掛川暉夫)

矢野 正二郎

(1992年6月27日受付)

I.内容要旨
細胞外マトリックスのひとつであるTenasin(TN)は,培養細胞を用いた実験結果から癌細胞に対する増殖促進作用や,細胞移動促進作用をもつことが示唆されている. これらの事実に着目し,ヒト胃癌症例を対象にTNが癌細胞の浸潤・転移にどのように関与しているのかを明らかにする目的で免疫組織学的に検討を行った.
1987年から1991年までの間に切除された胃癌症例90例(進行癌65例,早期癌25例) の原発巣,ならびにそのリンパ節転移巣25例,肝転移巣5例,腹膜播種巣10例を対象に新鮮凍結切片を作製し,抗TNモノクローナル抗体を用いABC法で免疫組織学的に検討を行った.また,TNの発現が顕著な症例30例について,抗Fibronectin(FN)モノクロナール抗体を用い免疫組織染色を施し,TNとFNの局在様式を比較検討した.さらにTNの発現と核増殖マーカーであるKi-67との関連についても検討を行った.
原発巣におけるTN発現率は全体として70%であった.進行度別では進行癌80%,早期癌44%と進行癌で有意に高く(p<0.01),癌先進部に強い発現がみられた. 転移巣におけるTNの発現率は,リンパ節転移巣92%,肝転移巣100%,腹膜転移巣100%で原発巣より高かった.TNとFNとの比較では,TNが癌先進部に強くみられた15例で、FNの発現はみられなかった.また,Ki-67陽性率は,TNの発現がみられた部位で発現がみられなかった部位より有意に高かった(p<0.01).以上より,TNは増殖活性の高い癌先進部や転移巣で強く発現し,FNと異なるメカニズムで癌の浸憫・転移に強く関与していることが示唆された.

キーワード
胃癌, テネイシン, Ki-67, 細胞外マトリックス

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