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日外会誌. 94(9): 1008-1016, 1993


原著

ラット可移植性大腸癌の樹立と転移モデルの確立

東海大学 医学部第2外科(主任:三富利夫教授)

安田 聖栄

(1992年4月9日受付)

I.内容要旨
大腸癌の転移巣に対する治療実験を進める目的で,ラットを用い転移モデルを作製した.まず近交系のF344ラットに1,2-dimethy!hydrazine(以下DMH)を20mg/kg,1回/1w,計20回皮下注し,大腸癌を誘発した.DMH投与開始後8カ月目に雄ラットの近位結腸に長径4mmの大腸癌が認められた.この腫瘍の一部を漿膜側から汚染をきたさないように採取し,同系ラットの皮下に移植した.その後は皮下または腹腔内で継代移植を続け,可移植性ラット大腸癌(TRC-1)を樹立した.TRC-1は継代移植が容易な中分化型腺癌で,腫瘍の倍加時間は37日と成長の遅い腫瘍であった.皮下継代腫瘍から浮遊細胞を作成し,8×106個を同系ラットの門脈内に注入したが,肝転移は成立しなかった.
次にTRC-1を材料として初代培養を行い,ラット大腸癌の培養細胞株(TRCC-1)を樹立した.培養開始後2年間を経過し,培養細胞の電子顕微鏡像で上皮に特徴的な微絨毛とデスモゾームおよび中間径フィラメソトが認められた.TRCC-1の5×106個を同系ラットの門脈内に注入すると(n=4),20日目に肉眼的肝転移が100%成立した.他の部位に肉眼的転移は認められなかった.また2×106個を尾静脈より注入すると(n=4),28日目に肉眼的肺転移が,1.5×106個を腹腔内注入すると(n=4),28日目に腹膜播種がそれぞれ100%成立した.
大腸癌由来の細胞を用いたラット転移モデルの報告は少ない.TRCC-1による転移モデルは大腸癌の転移巣に対する治療実験に利用できると考えられた.

キーワード
1,2-dimethylhydrazine, 化学誘発大腸癌, 可移植性大腸癌, 転移モデル, 大腸癌肝転移

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