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日外会誌. 94(9): 966-976, 1993


原著

全合成系人工酸素運搬体(リポソーム包埋ヘム)の臨床応用に関する実験的研究
-脱血犬における生体内酸素運搬能の検討-

慶應義塾大学 医学部外科学教室

渡辺 真純

(1992年3月31日受付)

I.内容要旨
鉄とポルフィリソの錯体であるヘムを合成し,これをリソ脂質二分子膜の層間に包埋し全合成系による人工酸素運搬体ーリポソーム包埋ヘム(L/H)を作成した.このL/Hの生体内における酸素運搬能を検討する目的でビーグル犬を用いて以下の実験を行った.
室内気で調節呼吸としたビーグル犬から30ml/kgを脱血し,I群(n=6)では同量のL/Hを,II群(n=7)では同量の生理的食塩水を点滴静注した.III群(n=7)では無処置とした.I群では平均体動脈圧は脱血後の99±28mmHgからL/H注入直後には134±15mmHgへと有意に上昇し(p<0.05),3時間後までそのレベルを保った.心拍出量は脱血により1.99±0.51ℓ/minから0.65±0.16ℓ/minまで低下したが,L/H投与により1.52±0.10ℓ/minへと有意に増加し(p<0.05),注入120分後までそのレベルを保った.平均肺動脈圧はL/H投与によりII群よりも上昇した(p<0.05).混合静脈血酸素分圧は32.1±3.0TorrからL/H投与後には42.1±8.0Torrへと有意に上昇し,II群と比較しても高値であった(p<0.05).酸素運搬量は128.1±17.3ml/minからL/H投与により230.7±36.7ml/minへと上昇し,注入後120分まで有意に上昇していた(p<0.05).注入直後ではL/Hによる酸素運搬量は全酸素運搬量の19.2%を占めていた.酸素消費量も投与後120分まで有意に上昇し(p<0.05),直後ではL/Hによるものが24.4%を占めていた.L/Hは生体内において酸素運搬能を有し,運搬された酸素は末梢組織で利用され,生食水投与群よりも酸素運搬能を改善させていた.

キーワード
全合成系人工酸素運搬体, 人工赤血球, リポソーム包埋ヘム, 出血性ショック, 酸素運搬能


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