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日外会誌. 94(7): 736-744, 1993


原著

上腹部多臓器移植の実験的研究

奈良県立医科大学 第1外科

木戸 潔 , 中島 祥介 , 金廣 裕道 , 久永 倫聖 , 中野 博重

(1992年3月9日受付)

I.内容要旨
1) 雑種成犬を用いて上腹部多臓器移植のモデルを作製し, 手技的, 機能的, 免疫学的問題について検討を加えた.
2)移植手技としては, recipientの上腹部内臓(肝, 膵, 牌, 胃十二指腸)を全摘後に, donorより摘出した肝, 膵, 牌, 十二指腸を一塊として同所性に移植した.経時的に肝機能(AKBR, GPT, GOT, ALP, 総ビリルビン)および膵機能(血糖, IRI, IVGTT, 血漿アミラーゼ)を測定し, 死亡時に肝, 膵, 十二指腸を組織学的に検討した.
3)移植成績は, 35頭中10頭が3日以上, うち6頭が6日以上生存した. 6日以上生存の死因はそれぞれ拒絶3例(7, 9, 14日), 動脈血栓1例(7日), 腹膜炎1例(6日), 呼吸器感染1例(免疫抑制剤投与例, 20日)であった. 3日生存の4頭はいずれも術後腹腔内への多量のリンパ液凝出に甚づくhypovolemiaが死因となり, その対策が予後向上に重要と考えられた.
4)手技面では, 膵の浮腫防止, 移植臓器の機能発現という観点から, graftの灌流は圧と流量に注意して腹部大動脈から行い, 血流再開は動脈血流から行うことが重要であると考えられた.
5)移植操作に伴う肝膵の機能障害は肝および膵内分泌機能ともに移植後3日目までにはほぼ回復したが, 膵外分泌障害は2~3日遷延した.膵炎の発生は免疫抑制剤投与の1例に一過性にみられたが, 同時に肝機能障害も認めたことから拒絶反応との鑑別が今後重要な問題であると考えられた.
6)拒絶例では肝機能は6日目頃より再度低下したが, 膵機能は6日目以降も死亡時まで著明な変動はみなかった.また死亡時組織学的所見でも, 免疫応答は肝に顕著, 膵に軽度認めたが, 十二指腸にはほとんど認めなかったことから, 拒絶反応は肝により早期により高度に出現するものと推察され, 免疫学的モニタリングにあたって留意すべき重要なボイントと考えられた.

キーワード
上腹部多臓器移植, 移植手技, 術後管理, 肝膵機能, 拒絶反応

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