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日外会誌. 94(7): 714-721, 1993


原著

肝部分切除後の肝再生と腫瘍増殖についての実験的検討

神戸大学 医学部第1外科

植田 智樹 , 宇佐美 真 , 大柳 治正 , 斎藤 洋一

(1992年2月25日受付)

I.内容要旨
肝癌切除後の早期再発の機序の一つとして, 肝切除後肝再生時の肝内腫瘍増殖を実験的に検討した.腹水肝癌細胞AH109AをDonryu系雄性ラットの肝内に5×106個移植し, 移植5日目に70%肝切除術, 単開腹術を行い, さらに非手術群を加え3群とした.また, 皮下腫瘍でも同じ3群を作成した.術後1, 3, 7日目(POD)に犠死せしめ, 腫瘍体積, 免疫組織染色によるlabellingindex (LI ;全細胞の核数に対するDNA合成期染色細胞の核数(%)), レーザードップラー法による肝および腫瘍組織血流量, 再生肝重量比を測定した.
7PODの残存肝内腫瘍体積は, 単開腹群129±63mm3に対し, 肝切除群492±117mm3と肝切除群で有意の増大を認めた(p<0.01).一方, 皮下腫瘍では各群間に差を認めなかった.肝内, 皮下腫瘍のLIは, ともに肝切除群では1PODに有意に上昇し, また単開腹群・非手術群に比較しても有意に高値であった(p<0.05~0.01).組織血流量は, 残存肝で146.0±20.3%, 肝内腫瘍で137.6±15.8%と増加し, ともに術前より増加した(p<0.01).さらに, 7PODの肝再生率は, 肝内腫瘍群100.8±21.0%で, 皮下腫瘍群の115.8±10.8%, 非手術群の143.1±11.1%と比較して低値を示した(p<0. 05~0. 01).
以上, 肝部分切除後の残存肝内腫瘍の増殖促進を認めたが, 皮下腫瘍では認めず, 肝再生時の残存肝内腫瘍に特異な現象であることが示された.一方, LIは, 肝内, 皮下腫瘍ともに1PODに上昇しており, 肝細胞および腫瘍細胞のDNA合成を促す液性因子の存在が考えられた.また, 肝切除後に腫瘍組織血流は増加し, 門脈中血中膵ホルモンも増加しており, 再生肝局所での増殖因子の関与が示され, 肝切除後早期再発の機序の一部が明らかにされた.
さらに, 非担癌時の肝再生と比較して, 肝内腫瘍の存在が肝再生を抑制することが明らかにされ, 肝癌切除後の肝再生が不良な症例では, 癌の早期の再発や癌遺残などを考慮し, 対処する必要があると考えられた.

キーワード
肝癌, 肝再生, 腫瘍増殖, labelling index, 腫瘍組織血流

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