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日外会誌. 94(7): 667-677, 1993


原著

消化管吻合における縫合部の血行に関する検討
―特に縫合糸の材質, 太さならびに縫合間隔の縫合部血行への影響について―

順天堂大学 医学部第2外科

大橋 薫

(1992年2月27日受付)

I.内容要旨
異常環境下にある消化管吻合部の血行に影響を与える因子について実験的研究を行った.雑種成犬32頭の結腸を切離後,Albert-Lembert縫合で吻合を行い,治癒の環境の異なった群,すなわち吻合部を阻血した群(n=16) と,阻血しなかった群(n=16) との2群問で比較を行った.血行を左右する因子のうち縫合糸の材質,太さ,縫合間隔に関して,各因子と吻合7日後の吻合部の血流量,微細血管造影所見,組織像を検討した.縫合糸が周囲組織へ及ぼす影響については,回腸の粘膜下層に縫合糸を埋没し,組織反応の波及面積を計測することにより検討した.結果は以下の如くである.
1. 吻合部の血流量(水素ガスクリアランス法)は吻合部を2cm阻血すると,silk群はpolyglycolicacid(以下PGA) より,また縫合間隔2mm群は4mmより有意に低値を示した(p<0.05).
2. 微細血管造影では,吻合部を2cm阻血した場合,silk群はPGAより,また縫合間隔2mm群は4mmより有意に大きいavascular areaを認めた(p<0.05).このavascular areaは組織学的には壊死像として確認され,血行障害を示す所見と考えられた.
3. 縫合糸の太さについては4-0群と6-0群は微細血管造影,血流量に有意差を示さなかった.
4. 吻合部において縫合糸の結紫により囲まれた部位の組織の変性壊死像は,縫合間隔4mm群の場合42.9%, 2mm群の場合75.0%に認められた.
5. 縫合糸の組織反応は縫合糸を軸にリンパ球を主体とする炎症性細胞の浸潤と線維化の強い肉芽の形成を認めた.この組織反応の波及面積は4-0silk群で0.878mm2, 4-0 PGAで0.587mm2silk群はPGAより広範囲であった.
以上より,縫合部の血行は縫合糸の材質ならびに縫合間隔に影響され,吻合部の血行が不良な状態では組織反応が少ない縫合糸の使用が望ましく,縫合間隔は狭くする(2mm間隔)よりも,広く(4mm間隔)する方が縫合不全が起こりにくいと考えられた.

キーワード
intestinal anastomosis, suture material, size of suture material, suture interval


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