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日外会誌. 94(6): 604-610, 1993


原著

損傷形態 ・ 合併症からみた肝損傷の手術術式の検討

大阪大学 医学部救急医学教室

横田 順一朗 , 溝端 康光 , 三谷 和弘 , 松岡 哲也 , 杉本 侃

(1991年9月24日受付)

I.内容要旨
肝損傷の救命率向上をはかる目的で, 受傷早期における手術術式を損傷形態, 死因および合併症から検討を加えた.鈍的肝外傷166例を対象にした. 24時問以内に死亡した37例を用い, 早期死亡の原因を損傷様式との関係で検討した.肝からの出血が直接死因となった症例は13例(35%) を占め, 損傷分類ではIlla型3例, Illb型10例で9例に傍下大静脈損傷を認めた.全例, 非定型肝切除術を施行した. 24時間以上生存した129例のうち開腹した89例を用い, 死因, 肝合併症を検討した.肝損傷による死亡は5例であった.術式別死亡数は肝切 (16例中) 2例, 肝縫合 (45例中) 3例, ドレナージのみ (25例中) 0例, パッキング (3例中) 0例であった.損傷分類ではIlla型4例, Illb型1例であった.各種肝合併症は術式に関係なく認められたが, hemobiliaと肝梗塞を除いては致死的とはならなかった.保存療法のなされた症例のうちCTを施行した31例, および開腹術前にCTを施行した47例, 計78症例のCT所見を対象に深在損傷の特性を検討したところ, IVCまで及ぶ損傷形態を78例中49例 (63%) に認めた.特に, 保存療法が可能であった31例中20例 (65%) に同所見を認めた.出血傾向, 他臓器の同時手術, 供血不足などが理由で, ガーゼパッキングを採用した5例中4例の止血効果は完璧であった.
以上より, 肝損傷の早期死亡は肝静脈・肝後面下大静脈損傷による出血死が大半を占めた.同時に, CTスキャンの研究は肝損傷の多くが肝静脈・肝後面下大静脈損傷を有することを示唆する一方, 同損傷部よりの出血が肝被膜・被膜下組織の圧迫効果で止血されている可能性を示した.この点で, 縫合術は理にかなった術式であるが, 不利な状況下でのパッキング手技も有用な術式と考えられた.

キーワード
肝損傷, 手術療法, ガーゼパッキング, CT スキャン

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