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日外会誌. 94(5): 435-441, 1993


原著

外科的侵襲下の脂肪酸代謝
―エピネフリン投与の外因性脂肪乳剤代謝に及ぼす影響ー

1) 関西医科大学 第1外科
2) 関西医科大学 第2外科

中川 学1) , 平松 義文1) , 印牧 俊樹1) , 松井 陽一1) , 上原 正憲1) , 上山 泰男1) , 日置 紘士郎2)

(1991年11月27日受付)

I.内容要旨
外科的侵襲時に投与される脂肪乳剤の構成脂肪酸の問題点を明らかにするため, 以下の実験を行った. SD系雄性ratを用い, Higgins-Anderson法に準じ70%肝切除を行い, 脂肪乳剤併用TPNを96時間施行した.侵襲モデルを増強させる目的でカテコールアミン(CA)を投与した群を作成し, CA無添加を対照群として, この2群間において, 14C標識脂肪乳剤をone shot静注し, 呼気14CO2回収率と14Cの肝脂質への移行を測定した.また侵襲度と脂肪酸代謝との関連を検討すべく肝リン脂質画分における構成脂肪酸を検討した.
結果: CA投与量が増大するとともに体重増加率およびN balanceは有意に低下した.標識脂肪乳剤の静注実験においては, 14CO2回収率は2群間において, 有意な差は認められなかった. CA投与による内因性脂肪酸の動員と脂肪酸酸化を考慮すると, ストレス下において脂肪酸酸化の亢進が考えられた.標識脂肪乳剤の肝臓各脂質画分への移行は, neutral lipidではcontrol群で有意に高く, 一方リン脂質画分への14Cの取り込みは両群においては有意な差は認められなかった.これは侵襲が強くなるほど異化状態にあり, 脂肪酸酸化が行われているにもかかわらず, リン脂質へのturn overは保たれていることが示唆される.肝リン脂質画分における脂肪酸分析では, Ca投与量の増加とともにリノール酸(LA)の増加とアラキドン酸の低下が認められた. リン脂質画分においてLAの増加が認められたことから, これは投与されたCAにより⊿5および⊿6desaturase活性が抑制されていることが示唆され, この状態で, LAを主成分とする脂肪乳剤を投与することは細胞膜の構成成分をさらに変化させ, ひいては細胞機能の破綻へとつながることが危惧される.侵襲下に投与される脂肪乳剤の脂肪酸構成は, 慎重に考慮されるべき問題である.

キーワード
LCT 脂肪乳剤, epinephrine, ⊿6 desaturase 活性, 必須脂肪酸代謝

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