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日外会誌. 94(3): 259-268, 1993


原著

肝冷却と細胞保護剤を使用した肝細胞機能温存肝切除術

兵庫医科大学 第1外科

山中 若樹 , 岡本 英三 , 藤原 史郎 , 折山 毅 , 藤元 治朗 , 加藤 年啓 , 古川 一隆

(1991年9月9日受付)

I.内容要旨
肝血行遮断による阻血障害の軽減を目的に術中肝冷却と細胞保護剤を使用した肝細胞機能温存肝切除術について検討を加えたので報告する.症例は静脈バイパスを作成した体外シャント群4例と非シャント群5例である.シャント群: 3例は肝癌, 1例は血管腫, いずれも巨大腫瘍であり, 切除肝重量は平均2,362gm (1,310~3,600)であった.バイパス方式としては, 1例はアンスロン🄬カテーテル, 3例はBio-pump🄬を用いて下大静脈バイパスを行った.肝血行は, 3例では全肝遮断し, その内遮断時間が60分と最長であった1例には門脈バイパスも加えた.他の1例は肝機能障害が高度であったため, 右Glisson系脈管群と右肝静脈を選択的に遮断し, 左葉の血行を温存しつつ右葉の区域切除(S5+S6+S7)を行った.4例中2例は4℃ラクテートリンゲルを用いて門脈系から冷却肝灌流し, 残り2例はice slushで表面冷却した.術後GPTの最高値は平均88U(51~116), 総bilirubin値のそれは平均3.1mg/dl (2.7~3.5)と肝機能の回復は良好であった.非シャント群:全例肝癌で, いずれも機能的に肝葉切除不可例であり, 複数の亜区域の切除を施行した.いずれも血行遮断前にUlinastatin30万単位を静脈投与, PGE1を術中, 術後持続静脈注入した.2例は右葉血行遮断下にice slushで表面冷却し, 3例は右Glisson系脈管群と右肝静脈を遮断し, 門脈系から肝右葉を選択的に冷却灌流しつつ肝切除を行った.肝左葉の血行は温存されている.肝深部温は35℃から19℃~26℃まで低下した.選択的右葉冷却灌流3例の阻血時間は40分から60分であったが, 術後のGPTの最高値は平均129U, 総Bilirubinのそれは平均4.6mg/dl(1.5~7.9)であった.結論:肝切除時の肝血行遮断に際して行った肝冷却+細胞保護剤静脈投与は肝阻血の安全性を高める有用な手段と考えられる.

キーワード
肝切除, 体内冷却肝灌流, 細胞保護, 体外静脈バイパス, 遠心ポンプ


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