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日外会誌. 94(2): 138-146, 1993


原著

転移性肝癌予防の実験的研究
-特にAdriamycin-lipiodol emulsionの門脈内投与の効果について-

東京女子医科大学 第2病院外科

加藤 博之 , 指導:梶原哲郎教授 

(1991年8月26日受付)

I.内容要旨
抗癌剤あるいは, 抗癌剤とlipiodolのemulsionを門脈内投与した場合の, 副作用および抗癌剤の組織内濃度の変化について, また, 悪性腫瘍の肝転移予防における癌細胞の着床, 発育に対する抑制効果について実験的に検討した.
まず, 家兎の門脈内にAdriamycin単独1.5mg/kgを投与 (ADR群), およびAdriamycin-lipiodolemulsionを投与 (ALE群) し, 経時的に門脈圧の測定, 血液生化学検査を行い, 肝, 腎, 心, 肺, 血清のADR濃度をHPLC法により測定し, 副作用および抗癌剤の組織内濃度の変化についてみた.次に家兎の門脈内にVX2細胞浮遊液を移植し, 移植直後に抗癌剤を投与する実験と移植3日後に投与する実験を行った. ADR群, ALE群およびcontrol群の3群を設定し, 各群6羽について腫瘍移植後16日目の肝転移の状況を比較した.
血液生化学検査では, ADR群とALE群で24時間後にピークを有するGOT, GPTの上昇をみたが7日目に正常化した.門脈圧はALE群で直後上昇したが, 24時間後には正常化した.
各組織内ADR濃度は, ADR群では投与初期に高濃度であり漸減するのに対し, ALE群では1時間後にピークを認めた.特に肝内濃度は, 2時間後にADR群と比べALE群で有意に高い濃度を示した.
移植直後投与例の肝表面転移数は, ADR群<ALE群<control群で各群間に有意な差を認めた.移植3日後投与例では, ALE群<ADR群<control群で, ADR群, ALE群とcontrol群の間に有意な差を認めた.
ADR単独およびALEの門脈内投与は安全であり, 転移性肝腫瘍において, 癌細胞の着床には, ALEよりADR単独投与が, また生着して間もない転移巣には, ALEの門脈投与が肝転移予防に対して効果的であると考えられた.

キーワード
転移性肝癌, 肝転移予防, 抗癌剤門脈内投与, Adriamycin-lipiodol emulsion, VX2腫瘍

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