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日外会誌. 94(2): 97-103, 1993


原著

胸部食道癌術後低リン血症の病態

浜松医科大学 第2外科

青木 克憲 , 西野 暢彦 , 今野 弘之 , 丸尾 祐司 , 田中 達郎 , 馬場 正三

(1991年8月17日受付)

I.内容要旨
最近4年間の食道癌開胸切除30例を術後肺合併症の有無により2群に分け(A群:非合併例, n=18, B群:合併例, n=12), 術後のリン代謝をretrospectiveに検討し, 次の結果を得た.なお2群間の術前背景因子に有意の差を認めない.①血清リン値は2群共に第2・3日有意に低下し, 第4日以後回復したが, 第6日に再び軽度低下する二峰性の経過を示した.個々の症例について検討すると, 低リン血症(<2mg/dl)は, 第2, 第3日に9例, さらに第4日以後に6例発生し, この内, 4例が肺合併症のためレスピレーター管理を続けていた.しかし, 全経過を通じて2群間に有意の差はなかった.② 1日尿中リン排泄量は, 第1・2日, 2群共通して有意に増加した. リンの尿細管再吸収率を示すTRP%は第2日に最も低下し, とくにB群では60%に低下した.また, リンの最大再吸収閾値濃度(TmPO4/GFR)は, 第2日に低下する傾向が認められた.以上より, 術直後の低リン血症は尿中排泄量の増加が主因と考えられた.③血清PTHは手術終了直後から第1日朝にかけて有意の増加を認め, さらに, PTHとTmPO4/GFRの間には有意の負相関がみられた.一方, 血清カルシウム値は第1日に微減ながら2群共に術前値に対して有意の低下を示し, さらに, 血清カルシウム/リン比は, 術前値に比し, 第2・3群共に有意の高値を示した.以上より, 術直後の尿中リン排泄量の増加はPTHの分泌亢進の関与が考えられ, その原因として手術侵襲自体, 血清カルシウム濃度の低下, 緩衝系の作用および利尿効果などの複数要因が考えられた.④高カロリー段階への移行にともない尿中排泄量の再増加がみられ, 一方, リンバランスと窒素平衡の間には, 有意の正相関が認められた.第6日における血清リン値の軽度の低下はカロリー負荷による細胞内外液間移動が主因と考えられた.⑤呼吸不全の重症例では尿中リン排泄量の減少がみられず, さらにカロリー負荷が重なり低リン血症が持続した.以上より, 術直後から予防的にリンを投与して術直後のリンの負平衡を改善し, 予定されるTPNによる細胞内外液間移動および呼吸不全の改善に対処すべきである.

キーワード
低リン血症, 術後肺合併症, 呼吸不全, 胸部食道癌, 副甲状腺ホルモン


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