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日外会誌. 94(1): 86-92, 1993


原著

リンパ節転移陽性乳癌における c-erbB-2遺伝子
蛋白の免疫組織学的解析

近畿大学 医学部第1外科学教室(主任:安富正幸教授)

前田 重成 , 綿谷 正弘 , 永山 孝一 , 門田 今日子 , 尾崎 公俊 , 和田 富雄 , 安富 正幸

(1991年8月10日受付)

I.内容要旨
95例のリンパ節転移陽性乳癌の原発巣ならびに転移リンパ節において, c-erbB-2遺伝子蛋白の過剰発現を免疫組織学的染色により解析することにより, c-erbB-2遺伝子変化の生物学的役割ならびに乳癌転移における臨床病理学的特性を明らかにしようとした.N1α;47例, n1β;16例, n2;31 例, n3;1例の95例のうち, 20例(21%)の原発巣においてc-erbB-2免疫染色陽性がみられ, また20例の転移リンパ節においてもc-erbB-2免疫染色陽性が認められた.原発巣においてc-erbB-2遺伝子蛋白過剰発現を示した20例のうち, 19例(95%)の転移リンパ節においてc-erbB-2遺伝子蛋白の過剰発現がみられ, 原発巣と転移リンパ節におけるc-erbB-2遺伝子蛋白過剰発現に関しては強い相関が認められた.
c-erbB-2免疫組織学的染色陽性乳癌は, すべてのTnm病期において13%から25%の頻度で認められた.また, c-erbB-2遺伝子蛋白過剰発現はホルモンレセプター陰性と相関がみられたが, 他の臨床病理学的因子との相関は認められなかった.c-erbB-2染色陽性例の予後はc-erbB-2染色陰性例と比べて, 生存率と健存率共に低い傾向を示した.また多変量解析からc-erbB-2遺伝子蛋白の過剰発現は, 再発に関して独立した予後因子となることが示された.以上より少なくとも20%の乳癌の発生・進展において, c-erbB-2遺伝子蛋白の過剰発現は比較的早期におこり, この遺伝子変化が転移の過程においても関与していることが考えられる.また, 免疫組織染色によるc-erbB-2遺伝子蛋白の過剰発現の検討は, リンパ節転移陽性乳癌患者の臨床予後判定に重要な情報を提供することが判明した.

キーワード
乳癌, c-erbB-2遺伝子, リンパ節転移, 免疫組織化学


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