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日外会誌. 94(1): 66-70, 1993


原著

Nafamostat mesilate(FUT-175)の肝転移抑制効果

岡山大学 第一外科学教室(主任:折田薫三教授)

木村 臣一 , 淵本 定儀 , 岩垣 博巳 , 折田 薫三

(1991年8月13日受付)

I.内容要旨
癌細胞は多くの凝固・線溶系に関するproteaseを分泌し, 宿主を過凝固・過線溶状態にし, 転移を亢進させていると報告されている.今回, マウスの肝転移モデルを用い, serine protease inhibitorであるnafamostatmesilate (FUT-175)の転移抑制の基礎的研究を行った.CDF1マウスにcolon26を5×103/0.5mlで門脈注入した.門注直前より連日7日間, FUT-175を0.3, 1.0, 3.0, 10.0mg/kgで尾静脈より静注した.21日目に屠殺し, 肝表面の転移数, 肝重量を測定した.転移個数はcontrol, FUT-175の0.3, 1.0, 3.0, 10.0mg/kgの各々の投与群で6.13±1.27, 5.43±2.32, 4.75±1.39, 4.25±2.38, 1.63±1.49であった.FUT-175の投与量が3.0mg/kg以下では転移数の減少は有意ではなかったが, 10.0mg/kgでは有意であった(p<0.01).一方, 肝重量には, まった<差が認められなかった.in vitroでFUT-175は10-5M以下では細胞毒性を示さず, FUT-175を10mg/kgで投与したときの血中濃度は2.67±0.31×10-7Mであった.したがって, FUT-175による転移抑制効果はこの薬剤による直接の細胞毒性によるものではないと考えられる.また, 2.67×10-7MのFUT-175はin vitroでthrombin, plasminを約50%抑制できるが, 血小板凝集やcollagenaseを直接は抑制できない.したがって, FUT-175の肝転移抑制効果はthrombin活性阻害やplasminを介するcollagenaseの活性化阻害により, 標的臓器脈管内定着と脈管外逸出の過程を阻害して, 転移を抑制している可能性が示唆された.

キーワード
転移機構, 転移性肝癌, 転移抑制, serine protease inhibitor, nafamostat mesilate(FUT-175)

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