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日外会誌. 93(11): 1441-1450, 1992


原著

下肢急性動脈閉塞症における血清及び組織中 lysosome 酵素と肝細胞障害に対する実験的検討

千葉大学 医学部第1外科

三浦 正義

(1990年12月18日受付)

I.内容要旨
下肢の急性虚血に伴う全身障害のメカニズムを究明するためラットの下肢動脈閉塞モデルを作成,ミオグロビン以外の毒性物質としてlysosome酵素に注目し,また本症における肝障害の役割について検討した.1)in vivoで下肢の虚血に対し血行を再建した群 (1群) と持続虚血群 (2群),sham手術群 (3群) について血中と筋組織中のlysosome酵素{cathepsin-D(Cat-D), β-glucuronidase(β-glu), acid phosphatase (ACP)}の変動と,全身障害のうち肝,腎につき組織中の上記の3酵素のfree活性とlysosome膜のfragility index (F.I.) を検討した.また,肝microsome機能総量を反映するアミノピリン呼気テスト(ABT)を行ない本モデルにおける肝機能障害を評価した.2) in vitroで虚血筋からのlysosome酵素の逸脱について検討した.結果) in vivoでは筋組織中のlysosome酵素には差を認めなかったが,in vitroではβ-glu: 1148±248U/g. tissue(正常筋810±273), ACP: 66.2±29.1U/g. tissue(正常筋35.8±4.7) とβ-glu, ACPの2酵素で有意(p<0.05)な差を認めた.血中のlysosome酵素では1群では血流再開2時間後に2, 3群に対し著明な上昇を示し (Cat-D: 1群2.360±0.496U/ml.min., 2群1.757±0.200;p<0.05, 3群1.497±0.228; p<0.01),また 2群も虚血時間の廷長に伴い上昇を示した.肝は血中lysosome酵素の上昇前からfree活性の上昇を示し1群では血流再開2時間にF.I.(Cat-D)の有意な(p<0.05)上昇を認めた.また,ABTでは正常ラットに対し1群21±9.7%, 2群17.7±7.6%, 3群48.3±28.1%と3群においても抑制が見られたが,1, 2両群はさらに有意な(p<0.05)を低下を示していた.一方,腎には強い障害を認めなかった.以上より,1) 筋の虚血により血中のlysosome酵素の上昇がみられるが特に血流を再開した直後の上昇が著しく,血行再建後の病態の急速な悪化に強く関与するものと考えられた.2)有意な肝microsome機能総量の低下を招く肝の障害が確認され,本症の臨床治療を行う上で肝庇護が重要と思われた.

キーワード
急性動脈閉塞, lysosome 酵素, アミノピリン呼気テスト, 肝細胞障害


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