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日外会誌. 93(11): 1427-1432, 1992


原著

胸筋温存乳癌根治手術における胸筋間リンパ節 (Rotter) 郭清の意義

新潟県立中央病院 外科
*) 乳腺クリニック児玉 外科

山崎 信保 , 児玉 宏*)

(1991年6月22日受付)

I.内容要旨
最近,わが国でも胸筋温存乳房切断術が乳癌に対する根治術式として一般化してきたが,その手術において大胸筋を温存し, しかも術後に筋萎縮を来さないようにするためには,大胸筋に分布する胸肩峰動静脈と胸筋神経を温存しなければならず, これらに沿った胸筋間(Rotter) リンパ節の郭清が不徹底になる可能性がある.我々の胸筋温存乳房切断術(児玉法)による手術症例のうち7-9年経過した168例に関し,胸筋間リンパ節について検討した.郭清されたリンパ節は,ほとんどが1-2mmの大きさで平均1.2個であった.転移の見られたのは10例で,大きさは2-4mmであり,占居部位はほとんどが外側の症例であった.肉眼病期別では, Tisは0/7(0%), Stage Iは2/41(4.9%)に,Stage IIは6/105(5.7%), Stage IIIは2/15(13%)に転移がみられた. リンパ節転移度では, n1αで6/38 (16%), n1βで1/10(10%), n2で3/6(50%)に転移がみられた. n2症例は全例遠隔転移と局所再発を来している. しかし,腋窩転移(1a, 1b領域)のないものでも2/116(1.7%)に胸筋間リンパ節のみの微小転移が存在し, この単独転移の症例は,現在まで再発もみられていない.
以上より,早期の乳癌症例でも胸筋間リンパ節に転移を起こす可能性がある.また腋窩リンパ節に転移がない場合でも,術中にはほとんど触知し得ない形で胸筋間リンパ節のみに転移があることもあり, これは郭清すれば良好な予後が期待できる. したがって胸筋温存術式の場合には,大胸筋外側からの郭清だけでは不充分で,胸筋間溝(Sulcus interpectoralis)を大きく開き,胸肩峰動静脈と胸筋神経の全走行を前方より直視し,大胸筋の裏面をも慎重に郭清する必要がある.また乳房温存手術の場合には,局所再発のチェックが困難なため,なおさら胸筋間リンパ節に注意する必要がある.

キーワード
胸筋温存乳房切断術, 乳癌根治手術, 児玉法, 胸筋間リンパ節, 微小転移

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