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日外会誌. 93(10): 1317-1323, 1992


原著

術前経皮経肝門脈枝塞栓術による肝切除の適応拡大と安全性の向上

大阪市立大学 医学部第2外科

田中 宏 , 木下 博明 , 広橋 一裕 , 久保 正二 , 藤尾 長久 , 岩佐 隆太郎 , 李 光春

(1991年6月10日受付)

I.内容要旨
肝細胞癌の手術適応の拡大と手術の安全性向上における経皮経肝門脈枝塞栓術(PTPE)の有用性とその限界について,昭和58年11月から平成2年12月末までの肝癌症例のうち門脈右1次分枝でのPTPE後右2区域切除施行の21例(E群)およびPTPE後右2区域切除非施行の7例(U群)とPTPE非併用右2区域切除施行の15例(N群)を対象に検討した.
その結果, EおよびN両群の肝左葉体積は治療開始前および肝切除4週後のいずれにおいても有意差はみられなかったが, E群ではPTPE2週後にあらかじめ有意な肝左葉体積増加がみられたため肝切除後4週間における残肝体積の増加はN群に比し緩徐な傾向にあった. ICG R15値は治療開始前からN群に比しE群で高い傾向にあったが,肝切除4週後では両群間に差はみられなかった.また肝切除後の肝機能や凝固機能検査値は両群ともに類似した変動を示したが, E群における術1日後の変化はN群に比し有意に緩徐であった.
一方EおよびU両群のICGR15値はPTPE前で有意差がなかったのに対し, PTPE2週後ではE群に比しU群が有意に高値となった.このため予後得点はE群ではPTPEにより有意に改善されたのに対し, U群では変化がみられなかった.またE群のうち術後に何らかの肝不全徴候が出現した4例はPTPE2週後の予後得点が50点以上かあるいはPTPE直後の門脈圧が30cmH2O以上の症例であった.さらに治療開始前から肝切除4週後までの残存肝体積増加率とPTPE2週後のICGR15値との間に強い負の相関がみられた.
したがって,肝機能予備力の点から右2区域切除の適応限界にある症例に対し術前PTPEを併用することにより,手術適応の拡大と手術の安全性が向上した.またPTPE前後の臨床像の評価から右2区域切除後に発症する肝不全や残存肝体積の増加がある程度予測できるため, PTPEは切除術式の最終決定においても有用であると考えられた.

キーワード
肝細胞癌, 経皮経肝門脈枝塞栓術 (PTPE), 2期的肝切除, 手術適応, 術後肝不全

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