[書誌情報] [全文PDF] (3639KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 93(8): 818-826, 1992


原著

VX2癌による高頻度肝転移・肝再発家兎胃癌モデルの確立とその発育・進展過程の組織学的解析

1) 神戸大学 医学部第1外科
2) 神戸大学 医療技術短期大学部

多田 康之1) , 多淵 芳樹2) , 斎藤 洋一1)

(1991年5月7日受付)

I.内容要旨
家兎35羽の胃漿膜下にVX2癌細胞1×106個を移植し,移植7 • 14 • 21 • 28日後に剖検した対照群と移植7 • 10 • 14日後に移植巣を切除し切除後それぞれ21 • 18 • 14日後に剖検した切除群に分類して,胃病巣の状態と腹腔内臓器及び肺転移の有無を組織学的に観察した.
胃病巣の平均径は,対照群では移植7日後の8mmから28日後には25mmと経時的に増大し,切除群では7 • 10日後は6mmと差はなかったが14日後には9mmに増大していた.組織学的には,癌細胞は移植7日後胃壁内に散在性に存在するのみであったが10日後には増殖が見られ, 14日以降粘膜から漿膜下層に癌細胞の増殖とその中心壊死及び脈管侵襲が観察された.静脈とリンパ管侵襲は移植14日後の10羽中それぞれ7 • 6羽に, 21 • 28日後は10羽全例に確認された.転移・再発は肝臓とリンパ節に認められ,そのうち肝転移は対照群では移植21・28日後に5羽中それぞれ2 • 3羽に見られ,切除群では移植7 • 10日後の切除例には見られなかったが14日後の切除家兎には全例に確認された. これらの肝転移・再発が認められた胃癌病巣には静脈侵襲が観察された.肝転移・再発巣は小葉周辺性の多発性転移として認められ,肝転移・再発巣周辺の小葉間静脈ないし類洞流入小静脈内に一部類洞浸潤を伴う腫瘍塞栓像が多数観察された.
上述の成績から, 自然発生肝転移・再発に胃病巣の静脈侵襲が強く関与し, この実験モデルでは移植後10日から14日という短期間に微小肝転移が生じていたこと,並びにこの転移の成立と進展に肝内門脈系小静脈内の腫瘍増殖が重要な役割を果していることが示唆される.またこの家兎胃癌モデルは高率に肝転移再発をきたす動物モデルとして,胃癌の肝転移・再発の発生機序の解明以外,小動物モデルでは行い難いヒトとほぼ同様な処置が行い得るため肝転移再発の予防や治療法の開発など種々な研究に利用できると考えられる.

キーワード
VX2癌, 家兎胃癌モデル, 肝転移再発モデル, 静脈侵襲, 小葉間静脈腫瘍塞栓


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。