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日外会誌. 93(8): 811-817, 1992


原著

腸間膜静脈
―肝門部門脈カテーテルバイパス法の実験的検討

名古屋大学 医学部第2外科学教室(指導:高木 弘教授)

春日 輝明 , 中尾 昭公

(1991年5月20日受付)

I.内容要旨
肝・胆道・膵手術において門脈と肝動脈の同時切除が余儀なくされる症例では,肝の阻血状態が惹起される.これを防止するためには門脈血を肝内に直接流入させる方法が考慮される.著者らは門脈うっ血と肝阻血を同時に防止できる腸間膜静脈一肝門部門脈(SMV-HPV)カテーテルバイパス法を考案し,このバイパス法の安全性を実験的に検討した.
本バイパス法のためヘパリン化親水性材料より新たにバルーン付きアンスロン🄬門脈バイパス用カテーテルを作製した.雑種成犬を全身麻酔下に開腹し,門脈本幹と肝動脈を遮断しバルーン付き門脈バイパス用カテーテルを用いて60分間SMV-HPVバイパス法を施行した群(バイパス群)を作製し,対照群として門脈うっ血防止のため腸間膜静脈ー大腿静脈バイパス法を設置し60分間門脈本幹と肝動脈を遮断した群(阻血群)を作製した.各群で経時的に末梢静脈血を採取し肝機能,凝固線溶系の変動を測定し,バイパス群ではバイパス血流量も測定した.さらにビーグル犬を用いて同様の2群を作製し,肝組織のアデニンヌクレオチド量(ATP, ADP, AMP), energy charge ratio (EC)を測定した.また肝組織を採取し病理組織学的に検討した.
阻血群は5頭中3頭が5日以内に死亡したが,バイパス群は全例長期生存した.阻血群は阻血中からATP,ECが低下し,阻血を解除してからは肝機能の異常,凝固能の低下,線溶系の亢進が認められた.これに対しバイパス群はこれらの変化は極軽度でほぼ生理的な反応の範囲内であった.バイパス血流量は平均250ml/minであった.肝組織の検討でも阻血群では阻血後60分で類洞とグリソン鞘の門脈内にフィブリン血栓が広範に認められ肝細胞の変性もみられたが,バイパス群ではこれらの変化はまったく認められなかった.
本バイパス法は肝・胆道・膵手術において門脈と肝動脈の同時切除再建を必要とする症例で,肝阻血と門脈うっ血を同時に予防する簡便で安全な手段である.

キーワード
バルーン付き門脈バイパス用カテーテル, 腸間膜静脈―肝門部門脈カテーテルバイパス法, 肝阻血, 門脈うっ血, アンスロン®

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