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日外会誌. 93(7): 753-756, 1992


原著

甲状腺分化癌術後における L-thyroxine は骨代謝障害をひきおこすか

伊藤病院 
*) 横浜市立大学 医学部第1外科

杉野 公則 , 呉 吉煥*) , 尾崎 修武 , 伊藤 國彦 , 松本 昭彦*)

(1991年4月26日受付)

I.内容要旨
甲状腺分化癌は予後の比較的良好な悪性腫葛であるが,若年の女性に好発する.一方,甲状腺分化癌術後にTSHを抑制する目的でL-thyroxineが投与されることが多いが, このL-thyroxineによる骨代謝障害がおこるという報告がある. L-thyroxineによる骨代謝障害が惹起されるか否かを明らかにすることは重要である.いままでの報告では,皮質骨の代謝障害が認められるとされているが,臨床的に問題となるのは海綿骨であるので,定量的CT法により腰椎骨塩量を測定し甲状腺分化癌術後に投与するL-thyroxineの海綿骨に対する影響を検討した.
伊藤病院および横浜市立大学第1外科で昭和43年から昭和63年に手術された甲状腺分化癌症例術後で,L-thyroxineを内服している閉経前の75例を対象とした.術後年数により術後10年以上経過の群<I群,17例>,術後5年以上10年未満の群<II群,28例>および術後5年未満の群<III群,30例>の3群に分けた.対照群は健康な閉経前の15例とした.骨塩量の評価は,定量的CT法により第3腰椎の骨塩量をCaCO3濃度で求めた.
L-thyroxine投与群と対照群の骨塩量は,それぞれ209.0±36.0および222.6±34.4mg/cm3で,有意差を認めなかった.I群,II群,III群の骨塩量は,それぞれ204.7±30.6, 213.1±39.7および207.6±36.5mg/cm3で,各群の間に有意差を認めず,かつ放照群との間にも有意差を認めなかった.
以上の結果から,甲状腺分化癌術後にTSH抑制療法のために投与されるL-thyroxineは骨代謝の面からは安全に投与することができると考えられた.

キーワード
甲状腺分化癌, 代謝性骨障害, L-thyroxine 内服

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