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日外会誌. 93(7): 716-722, 1992


原著

広範肝切除術に対する術前門脈枝塞栓術の有効性に関する実験的検討
―第1報

山形大学 医学部第1外科
1) 信州大学 医学部第1外科

坂井 庸祐 , 石山 秀一 , 塚本 長 , 幕内 雅敏1)

(1991年4月15日受付)

I.内容要旨
雑種成犬を用いて門脈枝塞栓術(TPE)を行い, TPE後2週目に70%肝切除, 85%肝切除を行うことにより, TPEの広範肝切除に対する有効性について検討した. 70%肝切除では全例が第2週目まで生存した.一方, 85%肝切除ではTPE(-)群では10例全例が死亡し, TPE(+)群では12例中2例が死亡した.死因は明らかな肝不全で死亡したTPE(-)群の1例を除き,全例が出血死であった.肝切除術後の肝機能をみると,総ビリルビン値は85%肝切除TPE(-)群で24時間目までに2.0mg/dl以上に急上昇して死亡した. 70%肝切除TPE(-)群では,第1病日,第3病日に各々, 1.1±0.3,1.4±0.5mg/dl(p<0.05)に上昇した.一方, TPE(+)群で70%, 85%肝切除のいずれの場合も1.0mg/dl以下の値で推移し, ビリルビン値の上昇はみられなかった. GOTは85%肝切除TPE(-)群で第1病日に1,046±266IUにまで上昇した. 85%TPE(+)群でも538±68IUにまで上昇したが, これは70%肝切除TPE(-)群の501±53IUとほぽ同等であった. 70%肝切除TPE(+)群では192±56IUと上昇の程度は他の3群に比べて第1,3病日に有意に軽度であった. GPTも同様の推移であった.術後生存した3群間で,血漿総蛋白, ICG-K値,ヘパプラスチンテスト,プロトロンビン時間の変動に有意な差はみられなかった. しかし, 85%肝切除TPE(-)群では術後24時間目までに著しい血液凝固障害がおこっていた.組織学的には85%肝切除においてTPE(-)群で門脈の拡張とうっ滞,門脈周囲への出血がみられ,門脈圧の上昇が示唆され,門脈圧の測定でもこれが証明されたが, TPE(+)群ではこれらの変化が軽微であった.以上より, TPEを行うことによって肝細胞数減少や門脈圧亢進が緩和されて一連の病態の発生を予防でき,広範肝切除がより安全に行われたものと考えられた.

キーワード
術前門脈枝塞栓術, 広範肝切除術, 肝切除術後の病態, 術後肝不全

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