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日外会誌. 93(7): 709-715, 1992


原著

保存肝におけるミトコソドリアエネルギー産生系の変化と肝移植における意義

東北大学 医学部第2外科

桜田 正寿 , 大河内 信宏 , 加藤 博孝 , 里見 進 , 佐々木 崇 , 田口 善雄 , 森 昌造

(1990年12月28日受付)

I.内容要旨
重症肝疾患に対し,欧米では肝移植が既に確立した治療となっている.しかし移植された肝が当初より機能しないprimary graft nonfunition (PGN)に陥る症例が2~23%あると報告されており,ひとたびこの事態に陥ると再移植を行わない限り患者は死に至る.従ってこれを未然に防ぐために,保存肝のviabilityを判定する指標の確立および確実なドナー肝の摘出・保存法の確立の2点が臨床上最重要課題となっている.我々はエネルギー産生能の重要性に着目し,その主座であるミトコンドリアの呼吸能が保存肝のviabilityの指標となりえるか否かをブタを用いた同所性肝移植実験を行って検討した.加えて人工心肺を用いる臓器摘出も試み, より長時間の保存を可能にするドナー肝の摘出法を模索した.従来法(Std群)では肝保存中mit.呼吸調節率(RCR)は経時的に低下し,その原因はstate 3呼吸が低下するためであった.これに対し人工心肺を用いて摘出した群(CC群)では, RCRが摘出時Std群に比して有意に高く,しかも摘出時の値が12h保存まで維持された. 12h保存肝の移植ではStd群6例中1例のみ生存に対しCC群では6例中5例に長期生存を得た. Std群12h保存肝の移植では摘出時著減したATPの回復は認められず一方, CC群では移植後lhで組織ATPの回復を認めた. mit.ATPはCC群とStd群いずれも保存中経時的に減少したが,前者で摘出時から保存中いずれの時点においても後者の2倍前後の値を示した.ATP産生能を反映すると考えられるRCRは,保存肝のviabilityの指標となりうると示唆され,その値はmit.ATP量に依存すると考えられた.また人工心肺を用いた摘出法はRCRを高く維持することが可能で, PGNを予防するのに効果的であった.

キーワード
肝移植, 臓器保存, エネルギー代謝, ミトコンドリア呼吸調節率

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