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日外会誌. 93(5): 540-546, 1992


原著

移植動脈グラフトにおける形態学的,機能的検討

久留米大学 医学部第2外科

磯村 正 , 犬塚 宏人 , 久富 光一 , 平野 顕夫 , 松添 慎一 , 小須賀 健一 , 大石 喜六

(1991年3月11日受付)

I.内容要旨
動脈グラフトの移植早期における形態的,機能的変化を静脈グラフトの変化と比較検討した.イヌ大腿静脈を遊離グラフトとして,動脈に自家移植を行い移植直後より21日目で経時的に走査電子顕微鏡による血管内腔の内皮細胞の変化,プロスタサイクリン産生能の変化を検討した.同時に,臨床的に得られた内胸動脈(ITA),胃大網動脈(GEA),大伏在静脈(SV)の摘出後のプロスタサイクリン産生能を測定し, これらの動,静脈間の内皮細胞の比較を行った.
静脈グラフトでは,吻合直後よりほとんどの内皮細胞は剝脱し, 7日目より血管内腔に部分的に島状に内皮細胞が再生され, 21日目には全ての内腔を覆った.しかし,動脈グラフトでは,移植後から内皮細胞の剝離はほとんどみられず,吻合部周囲の機械的操作による部での細胞の剝脱をみるのみで,この部も21日目までには,小型の再生内皮細胞により覆われた.
プロスタサイクリン産生能は,静脈グラフトでは吻合直後減少し,内皮細胞の再生と共に上昇を認めた.一方動脈グラフトでは,吻合前より35.9pg/mgと静脈グラフトの2.49pg/mgより高値を示し,移植後のグラフト内の血流により動脈グラフト内皮細胞の形態および機能とも保持されるものと考えられた.また,臨床的に用いたITA,GEAでは,グラフトの産生するプロスタサイクリン値は54.5pg/ml, 50.1pg/mgと有意差はなかったが,これらをSVの17.3pg/mgと比較すると有意に動脈グラフトのプロスタサイクリン産生能は高値を示した.
これらのことより,動脈グラフトでは静脈グラフトに比べ,移植早期からの形態的,機能的優位性が示唆され,長期における良好なグラフト開存の要因となり得るものと考えられた.

キーワード
動脈グラフト, 走査電子顕微鏡, プロスタサイクリン, グラフト開存

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