[書誌情報] [全文PDF] (1252KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 93(5): 523-532, 1992


原著

肺癌組織内のコラーゲン代謝に関する基礎的研究
―III型コラーゲン分解酵素活性を中心に―

慶應義塾大学 医学部外科

川村 雅文

(1991年4月15日受付)

I.内容要旨
本研究は肺癌組織のコラーゲン代謝をその病理組織学的所見と比較検討して,肺癌組織におけるコラーゲン代謝の異常の生物学的な意味を明らかにすることを目的とした.実験に当たり肺癌組織中のIII型コラーゲン分解酵素活性の測定法を新たに確立して用いた.9症例から手術時採取した肺癌組繊を用いて各例から5カ所,合計45試料を採取し, I型, III型, IV型の各コラーゲン分解酵素活性を測定した.さらに酵素活性測定部位の病理組織標本を作製し,各分解酵素活性と対応する部分の病理組織学的所見を比較検討した.
各分解酵素活性は同一腫瘍組織内でも部位により大きく異なっていた.病理組織所見と各コラーゲン分解酵素活性を対応させて検討すると,①検体組織標本中の腫瘍細胞の量と各分解酵素活性は相関を示さなかった.②線維組織の量とI型コラーゲン分解酵素活性はr=-0.3732で負の相関 (p<0.05) を示した.③炎症性細胞浸潤の程度とI型コラーゲン分解酵素活性はr=0. 3341で正の相関 (p<0.05) を, III型はr=0.4806でより強い正の相関 (p<0.01) を示した.①腫瘍細胞間への炎症性細胞浸潤の程度とIII型コラーゲン分解酵素活性はr=0.7196で強い正の相関 (p<0.01) を示した.
以上の結果から,①腫焉細胞が充実していても組織の状態によっては必ずしもコラーゲン代謝は亢進せず,②腫瘍内で線維化が強いところではI型コラーゲン分解酵素活性は低く, ③腫瘍細胞と炎症細胞が共に存在するとI型コラーゲン分解酵素活性とIII型コラーゲン分解酵素活性は上昇し, とくに腫瘍細胞間へ炎症細胞が侵入するとIII型コラーゲン分解酵素活性はより一層強くなることが示された.すなわち腫瘍組織内のコラーゲン代謝の亢進は腫瘍組織内の炎症性細胞浸潤と強く関係しており,その代謝の亢進に関与している酵素はI型とIII型, とくにIII型コラーゲン分解酵素活性であることが示された.

キーワード
type III collagenase, type I and type IV collagenase, lung cancer, inflammatory infiltration, collagenolytic enzymes


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。