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日外会誌. 93(5): 505-517, 1992


原著

2-および16α-Hydroxyestroneの乳癌増殖に及ぼす影響とヒト乳癌組織内エストロゲン水酸化酵素活性に関する研究

慶應義塾大学 医学部外科学教室(指導:北島政樹教授)

井本 滋

(1991年3月30日受付)

I.内容要旨
Estrogen (Es) とその代謝産物が乳癌の増殖に与える影響を検討する一環として, 2-および16α-hydroxyestrone (2-および16α-OHE1) 存在下におけるER陽性ヒト乳癌細胞株MCF-7の細胞増殖の観察と,乳腺組織ミクロゾーム分画におけるEsの2-および16α-水酸化活性の測定を行った. MCF-7の細胞増殖は, 10-8M 2-0HE1存在下で抑制され, これに10-8M estradiolを加えても増殖は促進されなかった. 10-8M 16α-OHE1は, estradiolと同様に増殖を促進し,しかも抗Es剤であるtamoxifenの増殖阻止効果に対し強い抵抗性を示した.
Es代謝酵素活性の測定は,乳癌患者44例から得た癌部,非癌部組織および良性乳腺疾患患者6例の良性乳腺疾患組織を対象とした.これらの組織より調製したミクロゾーム分画を用いて, 17β-estradiolを基質とした時のEs代謝産物を,逆相高速液体クロマトグラフィーによって測定した. Esの2-水酸化活性は,癌部 (N=44) 790±162pmol/mg/60min (以下pmol) (mean±S.E.M.),非癌部 (N=23) 1,674±414pmol, 良性乳腺疾患組織 (N=6) 1,126±548pmolであり,同一症例の検討では癌部の活性は非癌部に比し有意に活性が低かった (p<0.01).組織学的リンパ節転移を認めなかった群 (N= 13) 1,330±370pmolは,認めた群 (N=31) 562±158pmolに比し活性が高い傾向にあった.一方, Esの16α-水酸化活性は癌部178±86pmol, 非癌部244±148pmolであり,良性乳腺疾患組織には活性を認めなかった. ER (+) 群 (N=27) 288±138pmolは, ER (-) 群 (N=17) 4±4pmolに比し活性が有意に高かった(p<0.05).以上よりEs代謝過程において2-OHE1は乳癌細胞の増殖を抑制する内在性因子と考えられた.一方, 16α-OHE1はERを介して増殖を促進する可能性が示唆された.

キーワード
乳癌, estrogen metabolism, 2-hydroxyestrone, 16α-hydroxyestrone

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