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日外会誌. 93(5): 455-461, 1992


原著

外科手術症例における β2 microglobulin測定の意義について

大阪大学 医学部第2外科

本間 太郎 , 辻󠄀仲 利政 , 城戸 良弘 , 林田 嘉彦 , 石田 秀之 , 飯島 正平 , 森 武貞

(1991年4月15日受付)

I.内容要旨
近年,外科手術症例における腎尿細管障害の指標として,尿中β2microglobulin (BMG) および,N-acetyl-β-D-glucosaminidase (NAG) が用いられるようになったが,その評価に関して一定の見解は得られていない.今回我々は,当科での手術症例 (42例) を対象として,周術期に採血,採尿を行い各種腎機能の指標を算出し,その変動と外科手術症例におけるBMG測定の意義について検討した.
NAGは尿細管上皮の障害により尿中に逸脱する酵素で, NAG指数 (尿中NAG/尿中クレアチニン (Cr) 濃度) は,尿細管障害の程度を表わすとされている.同値の変動は,手術開始3時間後より急激に有意(p<0.01) な上昇を示した.また, 自由水クリアランスの絶対値も術中に有意(p<0.05) な低下を示し,さらに, Na排泄率も同時に異常値を取り術中からすでに潜在的な尿細管障害が生じていると考えられた. BMG排泄率(BMGクリアランス/Crクリアランス)の変動は,術中軽度の上昇を示し術後2日目にピークを認め,先に示した指標とは様相を異にした.これに対し,急性相反応物質であるC-reactiveprotein (CRP) の変動とは良く一致し,両者の間に高い相関関係 (r=0.716, n=136, p<0.001) が認められた.このことより, BMGが急性相反応物質としての性格を持ち,手術侵襲により産生が亢進することが考えられた.さらに,対象例中の開腹手術症例 (26例) について, ICG15分値 (CG15') より肝障害群 (ICG15'>25%) と正常群( ICG15'<20%) に分けると, BMG排泄率のピーク値は肝障害群では正常群に比し有意(p<0.01) に低値を取りCRPも同様の傾向を示した.これは侵襲下のBMG産生がCRP同様,主に,肝で行われていることを示している.
以上より,尿中BMGは外科手術後の尿細管障害の指標としては適さず,むしろ,急性相反応物質としての性格を有することが示唆された.

キーワード
腎尿細管障害, 手術侵襲, β2 microglobulin, N-acetyl-β-D-glucosaminidase, C-reactive protein


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