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日外会誌. 93(2): 189-196, 1992


原著

体外循環における同種 immunoglobulin-free 充塡法の基礎的,臨床的研究
-特に anaphylatoxin 産生を中心として-

高知医科大学 第2外科

岡田 忠雄 , 前尾 吉信 , 小田 勝志

(1991年1月7日受付)

I.内容要旨
開心術体外循環(cardiopulmonary bypass: CPB)において血中補体の活性化が起こり,その過程で産生されるanaphylatoxinが術後の循環動態不全,呼吸不全,腎機能障害,凝固機能障害などの誘因となり, anaphylatoxin産生に関しては変性lgがその一重要因子であると報告されている.そこで,CPBのImmunoglobulin(lg) -free充塡法として新鮮濃厚赤血球 (CRC)+A lbumin (Alb)充塡法を採用し, CPB中のanaphylatoxin産生抑制効果を基礎,臨床の両面より比較検討した.
基礎的実験として健常者10例の新鮮血清を飽和硫酸アンモニウム塩析法にてIgを分離しO2 bubbling処理にて変性lgを作製後,同一人もしくは他人(同血液型)新鮮血に加えC4a, C3a, C5a産生能を調べた. Albについても同様の操作,測定を行った.また, Ficoll-Conray比重遠心法で得た同種白血球を加えた時のC4a, C3a, C5a産生能をも調べた.個体差はあるが変性IgではC4a, C3a, C5a共に著明に上昇したのに対してAlb群ではほとんど変化をみなかった. bubbling処理白血球はC3aのみを有意に上昇させた.これらの基礎実験を踏まえてanaphylatoxin産生をできるだけ減弱させるCPBにおける新しい充塡法を開発しその臨床効果を検討した.
臨床例において通常充塡群(対照群) {BO : 20例, MO: 20例,無血充塡 (BO) : 10例} (但し無血充塡は通常充塡群に含めた)と lg-free充塡群 {BO : 13 例, MO : 13例}計76例の CPB患者につき術中の血中C4a, C3a, C5a値を比較検討した.なお,術後早期のAaDO2と挿管時間なども併せ検討した.通常充塡群ではC4a, C3a, C5a共にBO群がMO群より軽度高値を示し, 90分以降はBO群がMO群に対して有意に高値を示した.一方, lg-free充塡群では通常充塡群に比しBO群に上記補体値上昇の鈍化が認められ,特にC3aではBO群とMO群の較差がほとんど認められなくなった.また,protamine投与時のC4a値上昇の鈍化が認められた.なお,術後早期のAaDO2はlg-free充塡群に改善が認められ,特にBO群に著しかった.
以上の結果, 1) in vitro実験では, O2bubbling処理により生じた変性lgにはclassical pathway型の著しいanaphylatoxin産生能が認められ,O2bubbling処理白血球にもごく軽度のC3a産生能が観察された.2 )臨床面では,通常充填法に比しlg-free充塡法のanaphylatoxin産生の減少効果はBO群で特に著しく,術後早期の肺機能に同効果を反映しているとみられる改善所見を認めた.以上より,本充塡法の意義は大きいと考えられる.

キーワード
体外循環, 変性 Ig, 白血球, anaphylatoxin

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