[書誌情報] [全文PDF] (787KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 93(2): 150-157, 1992


原著

肝多包虫症に対する温熱化学療法の効果

北海道大学 医学部第1外科(指導:内野純一教授)

高橋 昌宏

(1990年12月10日受付)

I.内容要旨
肝多包虫症では発見時病巣が高度に進展しているため,切除不能となる症例が少なくない.このような症例に対しては,薬物療法が試みられているが,血中濃度や覇作用の問題があり,切除不能症例に対する治療法は未だ確立されていない.今回,我々はアラスカ株を感染源とし,好適中間宿主であるスナネズミに移植多包虫巣を作成し,実験的に温熱療法の有効性と薬物療法の併用効果について検討した.実験モデルとして移植部位により肝内移植群(第1群)と臀部皮下移植群(第2群)を作成した.第1群は原頭節約800個を肝実質に接種し, 2カ月後の成熟した包虫巣に接触型広拡散マイクロロッドを刺入し,低出カレーザーで温熱療法を施行した.また,非感染の正常肝にも同様に温熱療法を施行した.直後, 1, 3, 7日目に犠牲死させて得られた組織所見より,41℃,15分間のレーザー加温は原頭節,胚層に障害を起こすことが判明した.また,正常肝細胞は45~46℃,15分間の加温で変性・壊死を起こした.第2群は臀部皮下に原頭節約4,000個を接種し, 2カ月後の皮下包虫巣をモデルとし,温熱療法,薬物療法,併用療法を4週に亘って施行した.温熱療法は包虫巣を43℃の恒温槽を用いて20分間施行し,週6回と週3回の2群を設けた.薬物療法はAlbendazole 30mg/kg/日を1週5日間経口投与した.包虫巣重量を治療開始時より1週毎に測定した結果,治療群の増殖はいずれも各測定時において対照群に比し,有意に抑止された (p<0.05, p<0.01).組織所見では各治療群の小嚢包数と額包内原頭節数は対照群に比べ明らかに減少しており,特に温熱群,併用群に著明であった.薬物療法群では正常な原頭節,胚層の残存も認められたが,温熱群,併用群では原頭節,胚層ともに一様に変性・壊死しており,宿主側の反応と考えられるリンパ球の浸潤が強くみられた.以上より,肝多包虫症に対する温熱療法の可能性が示唆された.

キーワード
肝多包虫症, 温熱療法, Albendazole, 原頭節, 胚層


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。