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日外会誌. 93(1): 9-15, 1992


原著

食道癌手術における Vitamin K, Vitamin K 依存性凝固因子と PIVKA-II の変動とその意義
-術後 Vitamin K の投与は必要か-

鹿児島大学 医学部第1外科

小代 正隆 , 竹之下 満 , 年永 隆一 , 島津 久明

(1990年7月13日受付)

I.内容要旨
手術後はHypercoagulable stateとなる事が凝固,線溶,血小板などの各因子や,臨床的事実から示され,術後のいわゆる止血剤の投与は問題がある事を我々は指摘して来た.Vitamin K(VK)においても同様な立場であるが時として術後,VK欠乏による凝固障害に遭遇する事から,VKの投与の意義を検討するためにこの研究を行った.方法:1週間以上,経口摂取が不能でかつ抗生物質が投与される食道癌手術例につきVK毎日投与群と,全く投与しない非投与群とに分け術後の凝血学的検討を行った.
術前日より術後2週間迄のVK依存性凝固因子を総体的に反映するProthrombin Time(PT),VK依存性凝固因子Factor-II(F-II),Factor-VII(F-VII),Protein CとVKの欠乏により出現するPIVKA-IIおよび血中VK1とVK2の濃度を術前日,術後1,3,7,10,14病日に測定した.結果:VK非投与群ではPT,F-IIが術後7病日より異常を示し,14病日になるとVK投与群に比し有意にPTの低下,F-IIの減少がみられた.F-VIIとProtein CはVKの投与,非投与に有意差はみられず術直後減少し以後次第に増量した.PIVKA-IIはVK非投与群で術後7病日から有意に増量をはじめ以後著増したが投与群では全くPIVKA-IIの出現を見なかった.血中VK1はVK2の投与,非投与に関係なく減少し3日以後は測定できなかった.一方VK2は投与直後メナキノン4(MK-4)が高値となり,メナキノン7(MK-7)も若干の増量が見られたが,非投与群では低値で変化はみられなかった.考察:以上の結果から食道癌の術後はVKの非投与によりVK欠が術後1週間以後から見られた.その要因としては著者らの過去の検討結果や文献的に,術後経口摂取不能が1週間以上続き,かつ抗生物質が投与されている状況が考えられた.このような条件下では術後一週間以後からVK2の投与が無難と考えられる.逆に一週間以内で経口摂取可能な術後はVK2の投与は必要ないと考える.

キーワード
手術, VK 欠乏性凝固障害, Vitamin K, VK 依存性凝固因子, PIVKA-II


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