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日外会誌. 92(11): 1650-1662, 1991


原著

開心術後上室性不整脈に関する実験的検討
ー結節間伝導路障害と術後心房粗動の関係を中心にー

高知医科大学 第2外科(主任教授:田宮達男)

籏 厚

(1990年10月1日受付)

I.内容要旨
開心術後,特にMustard手術, Senning手術などの大血管転位症に対する心房位血流転換術や,心房中隔欠損症に対する手術の術後にしばしば経験される上室性不整脈は術後管理上問題となるばかりではなく,時として遠隔期における致死的合併症となる.これらは,心房切開や心房内修復による外科的侵襲が結節間伝導路を中心とした心房内の興奮伝播様式に影響を与えた結果と考えられる.これらの上室性不整脈の発生機序を解明しその防止策を考案するために以下の実験的検討をおこなった.1. 急性期実験,雑種成犬101を用い心拍動下に心房任意縦切開群,後結節間伝導路(PINT)縦切開群,Y字型切開群,心房横切開群, PINT横切開(1本, 2本)群,前結節間伝導路(AINT)切開群, AINT+PINT切開群,中結節間伝導路(MINT切開群, MINT+PINT切開群の10種の心房切開を施行し右心房表面のマッピングを行った.次いでこれらに心房高頻度剌激(800ppm, 10v, 30秒)を加え持続性心房粗動・細動(AfF)の誘発を試みた. 2. 慢性期実験.雑種成犬16頭を用い任意縦切開群, PINT縦切開群の慢性犬を作成, 84~105日後にマッピング及びAfFの誘発を試みた.また慢性期における摘出心の病理組織学的検索を行った. 3. PINT縦切開と心房高頻度剌激により作成した持続性心房粗動モデルにおいてそのreentrantcircuitのマッピングを行った.
結果:各種心房切開において切開線の後方に伝導遅延を認めた.どの切開においても房室伝導時間などに変化は認められなかった. AfFはPINT縦切開群で70.0%に誘発された.慢性期実験ではAfFが急性期非誘発例4例を含めた5例62.5%に誘発された.病理組織標本では線維化および異物反応が認められた.心房粗動のreentrantcircuitは三尖弁輪上に形成され,時計回転および半時計回転が認められた.以上より開心術に起因する心房粗動など心房性不整脈発生防止にPINTの温存が重要であると考えられた.

キーワード
開心術後上室性不整脈, 結節間伝導路, 心臓電気整理, マッピング, 心房位修復術


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