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日外会誌. 92(11): 1602-1607, 1991


原著

肝細胞癌における広範囲肝切除術の意義

名古屋大学 医学部第2外科

野浪 敏明 , 岸本 若彦 , 原田 明生 , 中尾 昭公 , 高木 弘

(1990年8月23日受付)

I.内容要旨
肝細胞癌肝切除時の肝切除術式決定の指標とするため,進行度及び肝切除術式と予後との関連を検討した.また同時に根治度の低い肝癌肝切除を明らかにすることによって合併補助療法の適応決定の指標とすることをも目的とした.1980年1月から1990年3月までの肝細胞癌肝切除222例を対象とした.StageⅠ症例の生存率は絶対的治癒切除例が相対的治癒切除例より良好な傾向を認めた.StageⅡ症例の予後は相対的治癒切除例と相対的非治癒切除例の間に差はなかった.しかし区域以上切除症例は,生存率,健存率ともに亜区域以下切除症例に比べ有意に良好であった.肝切除範囲別残存肝再発率は,部分切除,亜区域切除に比較して,1区域切除および2区域切除では低率であった.StageⅢ症例の生存率は,相対的治癒切除例と相対的非治癒切除例との間に差は認められなかった.また亜区域以下切除例と区域以上切除例との間にも差は認められなかった.StageⅣ症例の根治度別生存率は相対的非治癒切除例と絶対的非治癒切除例との間に差は認められなかった.肝切除後の死亡原因は,癌死23.2%,肝不全死9.2%,消化管出血死2.9%,術死4.3%,入院死4.3%,その他3.9%であり,いずれの死因においても亜区域以下切除例と区域以上切除例との間に差は認められなかった.以上の結果,以下の結論を得た.StageⅠの早期肝細胞癌ではできる限り絶対的治癒切除となるように術式を考慮する.StageⅡ肝細胞癌症例では区域または肝葉切除により根治される可能性が高くできる限り区域以上の肝切除を選択すべきである.これ以外の肝切除すなわちStageⅡ肝細胞癌症例で区域以上の肝切除が不能な場合およびStageⅢ,Ⅳ肝細胞癌症例に対する肝切除術の根治度は低く,原則として肝切除後の補助療法の併用が必要である.

キーワード
肝細胞癌, 進行度, 肝切除術, 区域切除, 肝葉切除


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